結論から言うと、日本の公立小中学校に「休学」という制度はありません。母子留学中の籍の扱いは、海外に住む予定が1年未満か、1年以上かで決まります。この記事では、学籍・住民票・区域外就学・出席扱い・一時帰国の体験入学を、文部科学省と自治体の公式情報にそって順番に整理します。
結論:小中学校に「休学」はない
まず、いちばん多い誤解をほどきます。公立の小学校・中学校には「休学」の手続きがありません。学校教育法施行規則で「生徒が休学しようとするときは校長の許可を受けなければならない」と定めているのは第94条(高等学校)で、これを準用しているのは中等教育学校・特別支援学校の高等部・高等専門学校です(専修学校は第181条で校長が定めるとされています)。
一方、小学校・中学校の章にはこの規定がなく、中学校に準用される条文を並べた第79条にも第94条は含まれていません。つまり休学は、義務教育より上の段階のための仕組みだということです。
ですから「休学届を出して1年あけて、戻ったら同じ学年に復帰」という設計は、制度としては成り立ちません。実務上の選択肢は二つだけです。在籍を残したまま長期欠席として扱ってもらうか、海外転出届を出して学齢簿から消除され、学校からは除籍となるか。どちらになるかは、ご家庭の希望ではなく海外に住む予定期間で決まります。
「就学義務の猶予・免除」の申請も要りません
もうひとつの誤解が、学校教育法第18条の猶予・免除です。この条文は、病弱や発育不完全などで就学が困難と認められるお子様のための制度です。
文部科学省は就学事務Q&Aのなかで、お子様と保護者が国外に転出している場合について「いずれの場合も保護者に就学義務は課されず、保護者の就学義務の猶予又は免除の事案とはなりません」と明記しています。海外にいるあいだは就学義務そのものがかからないので、申請する場面ではない、という整理です。
「インターに通わせても義務を果たせない」は国内の話
同じ文部科学省のページには、インターナショナルスクールに通わせても学校教育法第17条の就学義務を果たしたことにはならない、という趣旨の記載もあります。これを見て不安になる方がいますが、これは日本国内に住んだまま国内のインターへ通わせる場合の説明です。
海外へ転出したご家庭は、そもそも就学義務が課されない側に入ります。国内にいるのか、国外に転出しているのかで、まったく別の話になると覚えておいてください。この二つを混ぜた解説がとても多い領域です。
ご相談で「休学の申請書はどこでもらえますか」と聞かれることが本当に多いです。制度がないと知って驚かれますが、逆に言えば特別な申請をしなくても渡航できるということでもあります。
実際につまずくのは書類そのものではなく、学校に伝える時期です。担任の先生に早めにお伝えしておくと、成績証明書の英訳や、教科書の受け取りといった段取りが一度に進みます。
「1年」が分かれ目になる理由
扱いを分けているのは、海外滞在があらかじめ1年以上とわかっているかどうかです。文部科学省の就学事務Q&Aは、1年以上の転出なら住民基本台帳法にもとづく転出届によって住民票が消除され、それに伴い学齢簿も消除され、学校からは除籍となると説明しています。
一方、1年未満とわかっている場合は「国内に住所を有するものとして処理」され、在学関係を変える必要はありません。このとき在籍は残り、指導要録上は(長期)欠席の取扱いとするのが適当とされています。
「除籍」と聞くと驚かれますが、これは名簿上の処理です。帰国して転入届を出せば、住所地の教育委員会が改めて就学先を指定します。戻れなくなるという意味ではありません。
注意したいのが三つ目のパターンです。届出をしないまま出国して1年を超えると、居所が1年以上不明である場合と同じように在学しないものと同様に取り扱われ、指導要録も別に整理して保存されることになります。「何も言わずに行く」がいちばん扱いの読めない形になります。
学校の籍は、住民票とつながっている
なぜ住民票の話が学校の話になるのか、ここで押さえておくとすべてが腑に落ちます。市町村の教育委員会は、住民基本台帳にもとづいて「学齢簿」という名簿をつくります。どのお子様が就学すべきかを把握するための台帳です。
つまり住民票が動けば学齢簿が動き、学齢簿が動けば学校の籍が動くという順番になっています。学校に「籍を残してほしい」と頼んでも、住民票を抜けば扱いは変わります。逆に言えば、学校ではなく市区町村の窓口が起点だということです。
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| 項目 | 予定1年未満 | 予定1年以上 | 届出せず1年超 |
|---|---|---|---|
| 市区町村への届出 | 在籍の届出(様式名は自治体で異なる) | 海外転出届 | なし |
| 住民票 | 残る | 消除される | 残ったまま |
| 学齢簿 | そのまま | 消除される | 1年を境に扱いが変わる |
| 学校の籍 | 在籍のまま | 除籍 | 在学しない者と同様 |
| 指導要録 | (長期)欠席 | 別に整理して保存 | 別に整理して保存 |
| 戻る学校 | もとの学校 | 住所地で改めて指定 | 住所地で改めて指定 |
ここで大事なのは、1年という線は「実際に何年いたか」ではなく「あらかじめ何年の予定か」で引かれている点です。
予定が延びたときは、その時点で相談する
1年のつもりで出て、お子様が現地校になじんだので延長する。母子留学ではとてもよくある流れです。このとき困るのが、出国時の届出が「1年未満」の前提で処理されていることです。
予定が変わったとわかった時点で、市区町村の窓口に連絡して転出届に切り替えるかを確認してください。放置すると、届出をしないまま1年を超えた場合と同じ扱いに近づきます。延長を決めたその月のうちに一報を入れるくらいの感覚で十分です。
逆に、2年の予定が1年で切り上げになることもあります。帰国時に転入の手続きをすれば足りるので、早く帰ることで不利になる仕組みにはなっていません。
渡航前にやっておく手続き(5ステップ)
順番を間違えると二度手間になります。「学校に伝える → 期間を決める → 役所に届け出る」の順が基本です。
ひとつ注意したいのが、日本側を先に進めすぎないことです。現地校の入学許可とビザの見通しが立つ前に転出届まで済ませてしまうと、渡航が延びたときに日本側の籍も保険も宙に浮きます。現地の確定を待ってから役所に動くほうが安全です。
在籍校に相談する
出国時期と、戻る予定があるかを担任・管理職へ。証明書の準備や教科書の手配は学校経由で動くものが多く、ここが起点になります。
滞在予定期間を家族で決める
1年未満か1年以上かで、このあとの手続きがすべて変わります。迷う場合は延長の可能性も含めて役所の窓口に伝えてください。
市区町村の窓口で届け出る
1年以上なら海外転出届。1年未満なら、在籍を残すための届出書を用意している自治体があります(例:藤沢市「海外学校入学・在籍届出書」)。名称と要否は自治体で異なります。
在学証明書・成績証明書をもらう
渡航先の学校が入学審査で求めることがあります。英文が必要かどうかは進学先に先に確認し、和文と英文のどちらで依頼するかを学校へ伝えます。
教科書を受け取る
海外子女教育振興財団(JOES)が文部科学省の依頼を受け、新たに出国するお子様へ教科書を無償で渡しています。送料と梱包手数料は別途かかります。
※手続きの名称・必要書類・受付時期は市区町村で異なります。上記は文部科学省および各自治体が公表している内容にもとづく一般的な流れで、最終的な取り扱いはお住まいの教育委員会にご確認ください。
「区域外就学」は海外転出で使うのか
結論として、海外へ出ること自体に区域外就学の手続きは必要ありません。混同されやすいので、制度の中身を確認しておきます。
区域外就学は学校教育法施行令第9条の制度で、お子様の住所がある市町村以外の学校に通わせたいときに使います。条文では、保護者が就学先の教育委員会の承諾を証する書面を添えて、住所地の教育委員会へ届け出ることとされています。国内に住所があることが前提の制度だとわかります。文部科学省がこの制度を説明しているのも、地方移住や二地域居住といった国内の文脈です。
ただし、一時帰国の受け入れに使う自治体はあります
混乱の原因はここにあります。世田谷区は一時帰国したお子様の受け入れについて、住民登録を海外へ転出している方は「区域外就学申請書(一時帰国)」、転出していない方は「就学申請書(一時帰国)」と、様式を使い分けています。つまり「海外転出=区域外就学」ではなく、一時帰国の受け入れ窓口として区域外就学の様式を流用している自治体がある、という関係です。
ですから、この言葉が出てきたら「どこの自治体の、どの場面の話か」を確かめてください。出国のときの話なのか、一時帰国のときの話なのかで、必要な書類がまったく変わります。
留学中の学習は「出席扱い」になるのか
母子留学中の学習を出席扱いにできる、とは考えないほうが安全です。ここは集客目的で誤った説明が出回りやすい論点なので、根拠から確認します。
自宅でのICT等を活用した学習活動を指導要録上の出席扱いとする仕組みは、令和元年10月25日の「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」にもとづくものです。名前のとおり、対象は不登校の児童生徒です。
示されている要件のなかには、「訪問等による対面指導が適切に行われることを前提とすること」、そして「基本的に学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けられないような場合に行う学習活動であること」が含まれます。海外に住み、現地の学校に通っているお子様が、この前提を満たすのは現実的ではありません。
さらに文部科学省は、海外渡航中のお子様について「指導要録上(長期)欠席の取扱いとすることが適当」と別建てで整理しています。制度の系統がそもそも違うということです。
通知では、対面指導や学習活動の状況を校長が十分に把握すること、成果を評価に反映する場合は教育課程に照らして適切と判断されることも求められています。判断するのは在籍校の校長であり、保護者が教材を選んで申告すれば認められるという仕組みではありません。
とはいえ、欠席扱いになることと、学びが評価されないことは別です。現地校での学習の記録は、帰国後の学校や帰国生入試で説明材料になります。成績表や在学証明は現地で毎年もらい、翻訳を含めて保管しておいてください。
「欠席」という言葉に強く反応されるお母さんは多いです。ただ、私たちがお手伝いしてきたご家庭で、日本の指導要録の欠席日数が帰国後の進路の障害になった、という話はほとんど聞きません。
それよりも効くのは、現地校の成績表とレポートを一枚も捨てずに残しておくことです。帰国生入試でも、現地校での在籍期間と成績は必ず見られます。
混同しやすい3つの制度を切り分ける
母子留学の学籍まわりは、似た言葉が別の制度を指しているせいで情報が絡まっています。検索で出てくる説明を読み違えないために、三つだけ切り分けておきます。
1. 同じ市内での学校変更は「区域外就学」ではない
住所のある市町村のなかで、指定された学校とは別の学校に通わせたい場合は、就学校の指定変更という別の枠組みになります。学校教育法施行令でいえば第8条にあたり、市町村をまたぐ第9条の区域外就学とは別物です。
ちなみに区域外就学の申請では、承諾を求める書面のほかに学校長の所見を記した調書や住民票の提出を求める自治体があります(川崎市など)。書類の重さからも、国内での就学を前提にした制度だとわかります。
2. 「非常変災等」の規定は学校側の話
学校教育法施行規則第63条には、非常変災その他急迫の事情があるときは校長が臨時に授業を行わないことができる、という規定があります。台風や災害で学校が休みになるときの根拠です。
これは学校が授業を止めるための条文であって、個々のお子様の海外渡航とは関係がありません。「特別な事情として認めてもらう」といった文脈で持ち出されることがありますが、使い道が違います。
3. 「在籍」と「学籍」と「学齢簿」は別の言葉
自治体のページは「学籍」「除籍」と書き、文部科学省は「学齢簿」と書きます。学齢簿は市町村教育委員会がつくる名簿、学籍は学校側から見た在籍の状態で、指す場所が違います。窓口では「住民票を抜いたあと、学校の籍はどうなりますか」と具体的に聞くと話が早く進みます。
一時帰国の体験入学は自治体でここまで違う
夏休みに日本へ戻って、もとの学校に少し通わせたい——母子留学でいちばん多い希望です。ここで知っておきたいのは、いわゆる体験入学が国の制度ではないという事実です。
文部科学省は、一時帰国中のお子様の保護者向けFAQで「いわゆる『体験入学』は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されている」と説明しています。実施していない教育委員会もあり、実施していても期間や条件が違うとも書かれています。
実際に自治体の公表内容を並べると、方向が正反対になっている項目があります。
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| 自治体 | 位置づけ | 期間の条件 | そのほかの条件 |
|---|---|---|---|
| 世田谷区 | 体験入学ではなく正式な編入学として受け入れ | — | 住民登録の有無で申請様式を使い分け |
| 茅ヶ崎市 | 体験入学 | 原則2週間まで | 4〜5月と2〜3月は受入不可・中学3年生は受入不可・同年度中1回のみ |
| 三鷹市 | 体験入学 | 最低在籍期間21日間(長期休業期間は含まない) | 令和8年(2026年)4月からの基準・市内に住民登録がある場合は適用外 |
| 吹田市 | 正式な就学ではない体験入学 | 概ね1か月以内 | 成績評価なし・宿泊行事には参加できない |
| 藤沢市 | 体験入学 | — | 住民登録を残したまま海外にいる場合は体験入学できない |
注目していただきたいのは藤沢市の扱いです。同市は「藤沢市に住民登録したまま海外へ行っている場合は体験入学はできません」と明記しています。節税や手続きの手軽さから「住民票は残しておこう」と決めたご家庭が、一時帰国で受け入れてもらえない、という逆転が起こりうるということです。
期間の条件は向きまで割れています。茅ヶ崎市は原則2週間までという上限、三鷹市は最低在籍期間21日間という下限です(いずれも各市の公表表現)。同じ「2週間の一時帰国」でも、片方では収まり、片方では条件を満たしません。夏の帰国を毎年の予定に組み込むなら、渡航先を決める前に、戻る先の自治体の条件を先に調べておくほうが確実です。
条件そのものが変わることもあります。三鷹市の21日という下限は令和8年(2026年)4月からの基準として案内されており、市内に住民登録がある場合は適用されないとされています。数年前のブログで知った条件をそのまま信じない、が実務上いちばん大事な心構えです。
体験入学では教科書はもらえない・成績もつかないことがある
細かい違いですが、費用に関わる点をひとつ。文部科学省のFAQは、体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っておらず、編入学は対象としていると説明しています。世田谷区のように正式な編入学として受け入れる自治体と、体験入学として受け入れる自治体とでは、ここでも扱いが変わります。1年以上の予定で渡航していればJOESから受け取った教科書が手元にあるはずなので、それを持参するご家庭が多いです。
吹田市は体験入学について正式な就学ではないため成績評価はなく、宿泊をともなう行事には参加できないとしています。お子様に「日本の学校に戻れる」と伝えるときは、通知表がもらえるのかどうかまで確認しておくと、現地に戻ってからの落胆を避けられます。
※上記のFAQは令和2年に公表された資料です。当時の状況に応じた記載も含まれるため、現在の運用がそのまま同じとは限りません。制度の性格(国の制度ではなく教育委員会の裁量であること)は今も変わりませんが、個別の可否は必ず受け入れ先の教育委員会でご確認ください。
日本の学びを続ける3つの手段
籍がどうなっても、日本の学習を続ける手段は残ります。代表的なものが三つあります。
1. 教科書を受け取る(JOES)
海外子女教育振興財団(JOES)が、文部科学省からの依頼を受けて、新たに出国するお子様へ教科書を無償で渡しています。ただし送料・梱包手数料は自己負担です。対象は日本国籍があり、海外滞在予定が1年以上で、義務教育期間中(小・中学生)のお子様とされています(永住予定の場合は対象外)。滞在中の追加分は、在外公館を通じた追加送付の申請ができます。
つまり出国のときに一度もらって終わりではなく、学年が上がるたびに受け取る道が用意されているということです。日本の教科書が手元にあると、帰国後に取り戻す科目を決めるときの基準になります。永住を予定している場合は対象外とされている点にはご注意ください。
2. 日本人学校・補習授業校に通う
文部科学省によれば、日本人学校は令和6年4月15日現在で世界49カ国・1地域に94校、補習授業校は令和6年7月1日現在で51カ国・1地域に242校あります。マレーシアにはクアラルンプール・ジョホール・コタキナバル・ペナンの4つの日本人学校が置かれています。
日本人学校は文部科学大臣から国内の小・中・高校と同等の教育課程を有する旨の認定を受けており、日本人学校中学部の卒業者は、国内の高等学校の入学資格を有します。日本のカリキュラムを続けたいご家庭には現実的な選択肢です。くわしくはクアラルンプール日本人学校の記事もあわせてご覧ください。
この入学資格は、学校教育法施行規則で定められた高等学校の入学資格のルートのひとつとして整理されています。中学生のあいだに渡航するご家庭にとって、高校入試の受験資格をどう確保するかは大きな論点です。現地校を選ぶ場合は、帰国時にどのルートで資格を満たすのかを渡航前に確認しておいてください。
補習授業校は、現地校やインターに通うお子様が週末などに日本語で主要教科を学ぶ場です。日本人学校のように毎日通う形ではないため、現地校と両立させやすいのが特徴です。ただし開設されている都市は限られ、学年や定員の事情で希望どおりに入れるとは限りません。
3. 日本の通信教育・オンライン教材を使う
インターナショナルスクールに通いながら、日本語と算数・数学だけ日本の教材で進めるご家庭は多いです。全教科を追いかけると現地校の宿題と衝突しますので、帰国後に取り戻しにくい科目にしぼるのが現実的です。帰国後の日本語の維持については帰国後の日本語の記事で詳しく扱っています。
帰国後の学年は「年齢相当」が原則
帰国した時点で保護者に就学義務が戻り、住所地の教育委員会が住民基本台帳をもとに学齢簿を編製します。このときお子様は原則として年齢に応じた相当学年へ編入学する、というのが文部科学省の説明です。
ただし、直ちに相当学年の教育を受けることが適切でないと認められるときは、学校生活に適応するまで一時的に下級の学年に編入する措置も可能とされています。この場合でも指導要録上は学齢相当学年に編入したものとしておく必要があると明記されています。つまり下の学年で学ぶのは例外的な配慮であって、記録上の学年が下がるわけではありません。
「1年海外にいたら1学年遅れる」と心配されることがありますが、制度の原則はあくまで年齢主義です。帰国後の学校選びと編入手続きの詳細は、帰国後の学校選びの記事で扱っています。
なお、帰国生を受け入れる学級を置く国立大学の附属学校や、帰国生入試のある私立校もあります。ただし公表されている一覧は更新の間隔が空いていることがあるため、帰国時期を決める前に各校の最新の要項をご覧ください。
母子留学ならではの落とし穴
ここまでの制度説明は、企業の海外赴任を前提にした情報源が多い分野です。お父さんが日本に残る母子留学では、前提がひとつ違います。世帯の一部だけが海外へ出るという形です。
世帯の一部だけが転出する形になる
お母さんとお子様だけが転出届を出すと、日本の住まいには世帯主のお父さんが残ります。住民票・扶養・各種手当の扱いは家庭の事情で変わるため、学校の手続きと同じ窓口では完結しません。市区町村の住民窓口と教育委員会の両方に確認するのが確実です。
住民票を残すか抜くかは、三つの軸で考える
「結局どちらが得ですか」と必ず聞かれますが、一概には言えません。判断の軸だけ整理しておきます。
第一の軸は滞在予定期間です。1年以上の予定であれば転出届を出すのが原則の流れになります。第二が一時帰国の頻度で、毎年まとまった期間を日本で過ごすなら、戻る先の自治体が住民登録の有無をどう扱っているかが効いてきます。
第三が税・社会保険・各種手当です。たとえば児童手当は、児童手当法でお子様も受給する父母も日本国内に住所を有することが要件とされています。お子様が海外にいても対象となる留学特例はありますが、規則上の留学は父母等と同居しない場合と定義されています。お父さんが日本に残って受給する形でも、お子様は現地でお母さんと同居するため、通常はこの特例にあてはまりません。
子ども医療費助成は自治体ごとの制度で、その自治体に住民登録があることが前提とされています(新宿区・世田谷区など)。ここはご家庭の状況で結論が変わり、制度改定もあるため、学校の都合だけで決めないでください。住民窓口・教育委員会・加入している保険の窓口に、同じ前提を伝えて別々に確認するのが確実です。
学校からの連絡先を誰にするか決めておく
在籍を残す形を選んだ場合、学校からの連絡は日本の住所に届きます。緊急連絡先を日本のお父さんにするのか、現地のお母さんにするのかを出国前に学校と決めておくと、行き違いが起きません。
日本の証明書は「出国前」にしか取りにくい
現地校の入学審査では、日本の在学証明書や成績証明書の提出を求められることがあります。渡航してから日本の学校に依頼すると、郵送と時差で数週間かかるのが普通です。
母子留学ではお父さんが日本にいるため取り寄せ自体は頼めますが、それでも学期の切れ目に重なると間に合いません。必要になりそうな書類は、多めに出国前に受け取っておくのが結局いちばん早い方法です。
中学3年生のタイミングだけは別扱い
一時帰国の受け入れで中学3年生を対象外としている自治体があります(茅ヶ崎市など)。高校入試の年に重なるためです。中学生での母子留学を考えるなら、高校入試をどう受けるかを先に決めてから渡航時期を選ぶほうが安全です。
クアラルンプールでご相談を受けていて感じるのは、日本側の段取りを出国前に終えているご家庭ほど、現地での立ち上がりが早いということです。渡航後に日本の役所とやり取りするのは、時差と郵送でどうしても時間がかかります。
私たちは学校選びや住まいのご相談と一緒に、日本側で先に済ませておく項目もお伝えしています。制度そのものの判断は市区町村の窓口になりますが、何を、いつ、誰に聞くかの順番だけでも整理しておくと、迷う時間がぐっと減ります。
窓口で確認する3つの質問
最後に、市区町村の窓口へ持っていく質問を三つにしぼります。この三つが決まれば、残りの手続きは流れで進みます。
ひとつめは「滞在予定が◯年のとき、どの届出が必要ですか」。期間を具体的に伝えるのが肝心です。ふたつめは「住民票を残した場合と抜いた場合で、一時帰国のときの受け入れは変わりますか」。自治体によって答えが割れるのはここでした。
みっつめは「予定が延びたときは、いつまでに何をすればよいですか」です。延長は本当によく起こります。先に聞いておけば、現地から慌てて連絡する事態を避けられます。
渡航前にやることの順番を、一緒に整理しませんか?
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よくある質問
母子留学のあいだ、日本の小学校に「休学届」を出せますか?
公立の小中学校には休学の手続きがありません。学校教育法施行規則で校長の許可による休学を定めているのは第94条(高等学校)で、これを準用しているのは中等教育学校・特別支援学校の高等部・高等専門学校です。小学校・中学校の章には規定がなく、中学校への準用規定である第79条にも第94条は含まれていません。実務上は、滞在予定が1年未満なら在籍を残したまま指導要録上(長期)欠席として扱い、1年以上なら海外転出届によって学齢簿が消除され、学校からは除籍となります。どちらになるかは在籍校と教育委員会の判断です。
就学義務の猶予・免除の申請は必要ですか?
文部科学省は、お子様と保護者が国外に転出している場合、保護者に就学義務は課されず、就学義務の猶予または免除の事案とはならないと説明しています。学校教育法第18条の猶予・免除は、病弱や発育不完全などで就学が困難な場合の制度です。海外にいるあいだは、この申請をする場面ではないという整理になります。
住民票は抜いたほうがいいですか、残したほうがいいですか?
どちらが有利かは一概には言えません。滞在予定が1年以上あるかどうかが第一の基準で、税・保険・手当の扱いはご家庭の事情で変わります。学校に関して言えば、住民登録を残したままだと一時帰国時の体験入学を受け付けないと明記している自治体もあります(藤沢市など)。学校の面だけで決めず、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
留学中の勉強を「出席扱い」にしてもらえますか?
期待しないほうが安全です。自宅でのICT等を活用した学習を指導要録上の出席扱いとする仕組みは、令和元年10月25日の「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」にもとづくもので、対象は不登校の児童生徒です。要件には訪問等による対面指導が適切に行われることが前提と示されており、海外滞在中に満たすのは現実的ではありません。文部科学省は海外渡航中を指導要録上(長期)欠席として別に整理しています。
夏休みに一時帰国して、もとの学校に通えますか?
いわゆる体験入学は国の制度として存在せず、各教育委員会の裁量で実施されています。期間を原則2週間までとする自治体もあれば、21日間以上の在籍を条件とする自治体もあり、中学3年生は受け入れないなどの制限もあります。実施していない教育委員会もあるため、帰国の予定が決まった時点で、受け入れ先の市区町村に直接ご確認ください。
この記事で参照した公式情報
- 文部科学省「就学事務Q&A」(国外に転出する場合の就学義務/学齢簿の取扱い/帰国した場合の編入学)
- 学校教育法第17条・第18条/学校教育法施行令第9条(区域外就学)/学校教育法施行規則第79条・第94条・第181条
- 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(令和元年10月25日・元文科初第698号)
- 文部科学省「海外から一時帰国中又は一時帰国を予定しているお子様の保護者向けお問合せに寄せられたFAQ」(令和2年)
- 文部科学省「在外教育施設の概要」「文部科学大臣が認定した在外教育施設の一覧」
- 公益財団法人 海外子女教育振興財団(JOES)「教科書」「海外赴任が決まったら」
- 児童手当法第3条・第4条/児童手当法施行規則第1条(留学の定義)/こども家庭庁「児童手当制度のご案内」「よくあるご質問」
- 新宿区・世田谷区 子ども医療費助成の案内(対象要件)
- 世田谷区・茅ヶ崎市・三鷹市・吹田市・藤沢市 各教育委員会の一時帰国/海外転出にともなう就学手続きの案内
※本記事は2026年9月時点で各機関が公表している内容をもとに整理しています。制度や自治体の運用は改定されるため、手続きの前に必ず在籍校・お住まいの教育委員会など公式の窓口で最新をご確認ください。