結論から言うと、子どもの英語は「友だちと話す英語」と「教科を学ぶ英語」で伸びる速さがまったく違います。会話のレベルはおおよそ6か月〜2年で形になる一方、教科の学習に使うレベルは少なくとも5年、上級レベルに達するまで5〜7年かかるとされ、ネイティブの学年相当の基準に届くまで「少なくとも4〜8年」と報告した研究もあります。つまり「どこまで伸びるか」は素質だけの話ではなく、いつ入って何年いるか・その間にどんな支援を受けるかという設計が大きく影響します。この記事では、その2本の時間軸と、到達点を左右する条件を順番に整理します。先に結論だけ知りたい方は、年数別の早見表からご覧ください(年数はいずれも研究にもとづく一般的な目安で、お子さんの年齢・母語の土台・学校の支援体制によって大きく変わります)。
伸びるのは「2つの英語」で、速さが違う
「どこまで伸びるか」を語る前に、英語力は1本の物差しではないことを押さえておく必要があります。第二言語習得の研究では、この2つを分けて考えるのが基本になっています。
ひとつは日常のやりとりに使う力(BICS=生活言語能力)。友だちと遊ぶ、先生に「トイレに行きたい」と言う、給食の列に並ぶ——相手の表情や身ぶり、その場の状況という手がかりがあるので、比較的早く形になります。もうひとつが教科を学ぶための力(CALP=学習言語能力)。教科書を読む、理科の実験結果を文章で説明する、歴史の資料から意見を書く。こちらは目の前の手がかりが少なく、抽象度が高い語彙と長い文構造を扱うため、時間がかかります。この2つを分ける発想は、ジム・カミンズが1979年の論文で「学習や思考に使う言語の力」を「対人的なコミュニケーションの技能」と切り分けたことに始まり、のちに BICS/CALP という呼び方で教育の現場に広まりました。
この2つを混同すると、家庭の判断がずれます。「もうペラペラだから大丈夫」と見えている時期に、成績だけが伸びない——これは能力の問題ではなく、会話の力が先に立ち上がって、学習の言語がまだ育ちきっていないというプロセスどおりの状態です。逆に「まだ黙っている」時期に会話力だけを見て焦るのも、同じ取り違えです。
話す英語(BICS)/友だちとのやりとり・生活の英語
学ぶ英語(CALP)/教科書・レポート・試験の英語
習得プロセスの4段階(沈黙期から書けるまで)
実際の伸び方は、なだらかな右肩上がりではなく段階的です。順番を知っておくと、「今どこにいるのか」が判断できます。
沈黙期|聞いているが、まだ話さない
話す前に、聞き取りの力だけが動き出す時期。第二言語習得では「沈黙期(silent period)」と呼ばれます。ただし研究によって「沈黙」の定義(まったく話さないのか、単語なら出るのか)も期間もばらつきが大きく、数日から1年以上までの報告があり、「何週間で終わる」という定説はありません(実務向けの解説では「6週間以上続くことが多い」とされることもあります)。近年の研究レビューでは、この時期の子どもは黙っているのではなく、身ぶりや母語、単語を使って能動的にやりとりしていると整理されています。この時期にできているのは「理解」で、まだ「産出」ではありません。
単語・短いフレーズが出てくる
「Yes」「No」「Me too」「I don't know」といった短い単位から始まり、単語をつなげた表現が増えていきます。文法的に正しくないのが普通の段階です。家では英語の歌を口ずさむ、日本語の中に英単語が混ざる、といった変化が先に出ます。
会話が成立する|友だちと遊べる
やりとりが続くようになり、学校生活の困りごとが減ります。ここで「もう大丈夫」と見えるのが最大の落とし穴で、教科の英語はまだ途中です。実際、日常会話は6か月〜2年で形になるとされる一方、学習の言語はここからさらに数年かかります。
教科の言葉で読み・書き・考える
教科書の抽象的な語彙、長文の読解、エッセイの構成といった力が育つ段階。少なくとも5年、上級レベルの流暢さに達するまで5〜7年が目安とされます。英語が十分でない児童生徒1,548人を分析した研究では、教科目的の英語でネイティブの学年相当の全国基準に達するまで「少なくとも4〜8年」と報告されています(Collier 1987)。学校のレポートや試験の点数に表れてくるのは、この段階です。
※上記は一般的な段階の目安です。年齢・性格・母語の読み書きの土台・学校の支援体制によって進み方は大きく変わり、同じ家庭のきょうだいでも差が出ます。特定の年数を保証するものではありません。また、学校だけでなく家庭内でも話さない、表情や行動面の変化が続くなど気になる様子があるときは、言語の習得以外の要因が関わっていることもあります。「沈黙期だから待とう」と決めつけず、学校の担任・カウンセラーや専門家にご相談ください。
ご相談で一番多いのが、「渡航して数か月たつのに、まだ一言も英語を話しません」というご連絡です。ほとんどの場合、そのとき伸びているのは聞き取りの側で、話す力はまだ表に出てきていません。家で英語の歌を口ずさむ、日本語の中に英単語が混ざる、クラスメイトの名前を英語の発音で呼ぶ——この小さな変化が先に来ます。
この順番を親が知っているかどうかで、その時期の家の空気がまるで変わります。焦って家庭でも英語漬けにしてしまうと、お子さんが唯一安心して話せる場所を失うことになりかねません。
年数別|どこまでできるようになるかの早見表
「何年いれば、何ができるようになるのか」を、力ごとに分けて並べたのが下の表です。滞在年数を決める判断材料として使ってください。会話は早く、書く力と教科の理解は最後に来ます。ただし、これは研究にもとづく一般的な目安であり、到達を約束するものではありません。お子さんの渡航時の年齢・母語の読み書きの土台・学校の英語支援の体制によって、同じ年数でも結果は大きく変わります。※スマートフォンでご覧の方は、表を横にスワイプしてご覧ください。
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| 滞在年数 | 日常会話 | 友だちとの雑談 | 教科書を読む | エッセイを書く | 授業内容の理解 |
|---|---|---|---|---|---|
| 〜半年 | △ 単語・短文 | × 聞く中心 | × | × | × 支援が必要 |
| 1年 | ○ 通じ始める | △ 場面次第 | △ 絵・図が頼り | × | △ 部分的 |
| 2年 | ◎ | ○ | △ 学年より易しめ | △ 型があれば | △ 教科で差が出る |
| 3〜4年 | ◎ | ◎ | ○ | ○ 型を離れ始める | ○ 教科差は残る |
| 5〜7年 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ 同学年に近づく |
この表から読み取ってほしいのは、1〜2年の滞在で確実に変わるのは「会話と度胸」であって、「英語で学べる状態」とは別だという点です。短期・1年の留学に価値がないという話ではなく、目的を会話と体験に置くのか、英語で学べる状態まで持っていくのかで、必要な年数がまるで違うということです。ここを曖昧にしたまま渡航すると、「2年経ったのに成績が上がらない」という評価のずれが起きます。
お子さんの年齢と滞在年数から、届く到達点を一緒に確かめませんか?
この表は一般的な目安です。お子さんの現在の年齢と、志望校の英語支援が終わる学年を突き合わせると、
「何年いれば、どこまで届くか」が具体的に見えてきます。現地スタッフが一緒に照らし合わせます。
到達点を左右する4つの条件
結論から言えば、差を生んでいるのは素質ではなく①渡航したときの年齢 ②滞在年数 ③母語の読み書きの土台 ④学校の外で英語を使う量の4つです。同じ2年でも到達点が大きく違うのは、この組み合わせが違うからです。
① 渡航したときの年齢
発音や「英語らしいリズム」は幼いほど身につきやすい傾向があります。一方で「早いほど良い、遅いと手遅れ」という単純な話ではありません。英語話者66万9,498人のデータを分析した2018年の研究(Hartshorne ら, Cognition)は、文法を学ぶ力が17.4歳ごろまでほぼ保たれ、その後徐々に下がると報告しました。ただし後年の再分析では、全学習者に共通する17.4歳という一つの境目は成り立たず、学習者のタイプによって下がり方が違うとされています(van der Slik ら, 2022)。年齢はあくまで有利・不利の傾向を示すもので、学習の可能性を区切る締め切りではありません。
さらに、「教科を学ぶ英語」に限ると、いちばん幼い時期に渡った子がいちばん速いわけではないという報告があります。Collier は米国の移民の子どもを分析し、渡航時に8〜12歳ごろだった子が、教科のテストでネイティブの学年基準に最も早く到達した一方、5〜7歳で渡った子はそれより年数がかかり、12〜15歳で渡った子が最も苦労したとしています。5〜7歳が遅れる理由として挙げられているのが、母語での読み書き・学習の土台がまだ固まっていないという点です(このあとの③に直結します)。オランダ語を自然に習得した子どもと大人を追った研究でも、渡航から約1年の時点でいちばん伸びていたのは8〜10歳と12〜15歳のグループで、3〜5歳が最も低い結果でした。
※いずれも1970〜80年代に海外(米国・オランダ)で行われた研究で、年数の具体値は資料によって幅があります。マレーシアのインターナショナルスクールにそのまま当てはまるものではありません。「幼いほど必ず速い、とは限らない」という傾向として読んでください。
② 滞在年数(そして、その使い方)
上の早見表のとおり、教科の英語は年数がものを言います。ただし年数を「置いておく」だけでは伸びません。学校で英語支援を受けているか、教科の授業に参加できているかで、同じ2年の中身が変わります。
③ 母語(日本語)の読み書きの土台
見落とされがちですが、ここが到達点にかなり効きます。母語で「読んで考えて書く」経験がある子は、その力を英語側に移して使えます。逆に母語と読み書きの力が十分に育っていない段階で切り替えると、上級レベルの流暢さに届くまで7〜10年かかるとされます(Colorín Colorado)。日本語を守ることは、英語を伸ばすことと対立しません。
④ 学校の外でどれだけ英語を使うか
学校の中だけで英語を使い、放課後は日本語のコミュニティで過ごす——この形でも会話は伸びますが、伸び方は緩やかになります。反対に、家庭を英語漬けにするのは③を削るので逆効果になりえます。放課後の活動やスポーツなど「英語で何かをする時間」を作るのが、負荷が低く効く形です。
年齢・学年で「天井」が変わる理由
ここでいう「天井」は、お子さんの英語力の限界という意味ではありません。学年が上がるほど教科の負荷が増え、英語そのものに集中できる「時間的な猶予」が短くなる——その猶予の上限を指しています。だから「どこまで伸びるか」は、実務では年齢そのものより学年の壁で決まります。学校段階ごとに、設計の論点が変わります。
| 渡航時の段階 | 「どこまで」の考え方と論点 |
|---|---|
| 幼児期(3〜6歳ごろ) | 家庭で日本語が使える環境なら、英語は生活の一部として無理なく入りやすい段階。論点は英語ではなく「最終的にどちらを第一言語にするか」を決めておくこと。 |
| 小学校低〜中学年(7〜10歳ごろ) | 日本語で自分の気持ちや考えを表現できるようになる時期。日本語と英語をバランスよく伸ばしやすい一方、「教科の勉強をどちらの言語で積むのか」の方針決めが不可欠。 |
| 中学生前半 | まだ英語とじっくり向き合う時間が残っている段階。会話から学習言語へ移行する余裕を確保しやすい。 |
| 中学生後半以降 | 英語の習得と専門科目の学習を同時に進める必要が出てくる段階。卒業資格につながるカリキュラムが始まると、英語に集中できる猶予が短くなる。 |
| 大学進学準備の段階 | 学校側の英語サポートがほぼ無くなる段階。十分な英語力がない状態からのスタートは推奨しにくい。 |
※上表はマレーシアのインターナショナルスクール(イギリス系カリキュラム)を前提に現地スタッフが整理した一般的な傾向です。学校ごとに受け入れ方針・英語支援の体制は異なるため、志望校の最新の運用は必ず学校にご確認ください。学年の対応や編入時期の詳細はインター校の英語力と入学条件の記事で扱っています。
学校見学に同行していて痛感するのは、「どこまで伸ばせるか」はお子さんの能力より、いつ入って何年いるかという設計でほぼ決まるということです。中等課程では英語の授業自体が、第二言語として学ぶクラスと、母語話者向けに高度な語彙・長文のエッセイを求めるクラスに分かれていきます。どちら側に座るかで、その後の到達点も進路の選択肢も変わってきます。
だからこそ私たちは、ご相談の最初に「英語をどこまで伸ばしたいか」ではなく「何年いられるか」「帰国の可能性はあるか」を伺います。年数が決まれば、狙える到達点や、検討すべき学校の支援体制の方向性をかなり絞り込めるからです。
学校の英語サポートには「いつまで」の線がある
「どこまで伸びるか」を現実的に決めるのが、学校の英語支援(ESL/EAL)が何年生まで用意されているかです。ESL・EALはどちらも「英語を母語としない子ども向けの英語の補助授業」を指す呼び名で(ESL=English as a Second Language/EAL=English as an Additional Language)、マレーシアのインターナショナルスクールでは EAL と呼ぶ学校が多くなっています。ここは学校の公式情報で確認できるので、志望校を絞る前に必ず見てください。マレーシアの主要校でも扱いが違います。
- 対象学年に上限がある学校がある:モントキアラ・インターナショナルスクール(M'KIS)は、EAL の対象をGrade 1〜10とし、最終学年の Grade 11・12 には EAL を提供しないと公表しています。エプソムカレッジ・マレーシアは、中等課程の Key Stage 3(Year 7〜9)について EAL による「的を絞った支援(targeted support)」があると公表しています。
- 支援は有料で、期ごとに積み上がる:M'KIS は EAL の費用を学期(semester)あたりの定額で公表しており、2025/2026年度の料金表では集中コースと通常サポートで金額が分かれています。Nexus International School Malaysia は集中英語プログラムの費用を授業料の20%(1タームあたり/年3ターム制)と公表し、どのレベルに入るかは入学時のアセスメントで決めるとしています。「英語支援は無料のおまけ」ではなく、支援を受けている期間ぶん積み上がる費用として、学費とは別に見積もっておくのが安全です。金額は学校・学年・支援のレベルで変わり、サービス税(SST)が加算される場合もあります。
- 「いつ抜けられるか」は年数で決まっていない:MIGS(Mutiara International Grammar School)は、EAL の期間について英語科の教員が判定し、生徒によって異なると説明しています。「1年で卒業できます」と年数を約束する学校の説明は、むしろ慎重に見るべきです。
※上記は各校が2026年8月時点で公表している内容をもとにした整理です。1年を2学期で数える学校と3ターム制の学校があり、「1期あたり」の金額をそのまま比べられません。また学費や英語支援の費用にはサービス税が加算される場合があります。学年区分・費用・判定方法は学校の裁量で変わり、年度ごとに改定されるため、出願前に必ず志望校の最新の料金表と英語支援の説明をご確認ください。費用の内訳と学年の壁はインター校のESL費用と期間の記事で詳しく扱っています。
ここから導かれる実務上の結論は明快です。「英語ゼロで入れるか」ではなく「英語支援が、自分の子の学年に用意されているか」で学校を絞る。この順番を逆にすると、入学はできても支援のない学年に着地して、伸びる前に授業で行き詰まります。
伸び悩みのサインと、動くタイミング
伸び悩みは「滞在して何か月たったか」ではなく、生活と学習に出る具体的なサイン——友だちの輪に入れているか、宿題の指示を自力で理解できているか、登校をいやがっていないか——で判断します。「うちの子は伸びていないのでは」という不安に、いちばん役立つのはこの状態の観察です。次のような様子が続く場合は、学校の英語支援担当(EAL コーディネーター等)に面談を申し込んでください。
- 半年以上たっても、休み時間に誰の輪にも入れていない(先生に聞けば分かります)
- 会話は成立するのに、宿題の指示が分からず毎回親が英語を訳している(=学習言語が止まっているサイン)
- 読む量が学年よりはっきり少なく、本を自分から開かない
- 登校をいやがる、学校の話をしなくなる、体調不良が続く
逆に、「まだ話さない」だけでは伸び悩みの根拠になりません。沈黙期は正常な段階なので、そこだけを見て学校を変える判断は早すぎます。判断に迷ったら、学校に「うちの子は今どの段階か」「支援を増やす選択肢はあるか」を具体的に聞くのが最短です。多くの学校は、支援レベルの見直しを学期の区切りで検討します。
※学習面以外の要因(発達の特性・環境の変化によるストレス等)が背景にある場合もあります。気になる様子が続くときは、学校の担当者や専門家にご相談ください。本記事は一般的な情報の整理であり、個別の診断・助言に代わるものではありません。
日本語はどうなるのか
「英語がここまで伸びる代わりに、日本語が消えるのでは」——ほぼすべてのご家庭が抱く不安です。研究の世界では、使わなくなった言語には第一言語でさえ変化が起こりうると扱われています(第一言語の摩耗/attrition)。裏を返せば、あとから身につけた英語も「置いておけば自然に残る」とは考えにくい、ということです。
ただし、これは英語と日本語のどちらかを選ぶという話ではありません。前述したとおり、母語で読んで考えて書く力は、英語側の学習言語を支えます。日本語を守ることは英語の到達点を下げるどころか、むしろ上限を上げる側に働きます。
実務で押さえておきたいのが、日本語を学べる場の選択肢は住む都市によって違う点です。マレーシアの日本人学校は、クアラルンプール・ジョホール・ペナン・コタキナバルの4校です(文部科学省が認定した在外教育施設の一覧)。一方、現地校やインター校に通う子が週末などに日本語で一部の教科を学ぶ「補習授業校」は、外務大臣の指定を受けているのがペナンとペラの2校で、クアラルンプールは指定の一覧に含まれていません。つまりKLで暮らす場合、日本語の学習はクアラルンプール日本人学校に通うか、民間の日本語教室・オンライン・通信教育・家庭での取り組みを組み合わせて維持していくことになります(指定を受けていない民間の補習教室まで無いという意味ではないため、最新の状況はお住まいの予定地でご確認ください)。渡航前に「日本語をどう続けるか」を決めておくべき理由がここにあります。
※在外教育施設の設置状況は変わります。日本人学校の一覧は文部科学省の海外子女教育(CLARINET)、補習授業校の指定状況は外務省の海外教育のページが一次情報です。日本語の維持については海外でのバイリンガルの育て方とインター校と日本語への影響で詳しく扱っています。
英語が順調に伸びているご家庭は、例外なく家の中の日本語を意識的に守っています。学校で英語を浴びているぶん、家では日本語で今日あったことを最後まで話させる。それだけで、お子さんは「考えを組み立てる」練習を続けられます。
逆に、家庭でも英語だけにしたご家庭ほど、数年後に「英語も日本語も、深い話ができない」という悩みに変わっていく傾向があります。英語を伸ばしたいときこそ、家の日本語を削らない——これは現場で何度も確かめてきた順番です。
帰国後、英語は残るのか
結論は、どの段階まで届いていたかで変わります。会話だけの段階で帰国すると、使う相手がいなくなった時点で落ちやすいのが実情です。一方、読む・書くところまで届いていた子は、帰国後も英語で読み続けることで保ちやすくなります。文字の力は、話し相手がいなくても一人で維持できるからです。
だからこそ、帰国の可能性があるご家庭には「会話まで」で終えるのか、「読み書きまで」持っていくのかを渡航前に決めることをおすすめしています。ここが決まっていれば、滞在年数の判断も学校選びの条件もぶれません。帰国後の進路や受験については帰国後の学校・帰国子女枠の記事で整理しています。
「何年いて、どこまで狙うか」から、学校選びを組み立てませんか?
お子さんの年齢・滞在できる年数・帰国の可能性をもとに、
現地スタッフが英語支援のある学校の候補まで一緒に整理します。
よくある質問
子どもの英語はどこまで伸びますか?
「友だちと話す英語」と「教科を学ぶ英語」を分けて考える必要があります。研究の世界では、日常会話のレベルはおおよそ6か月〜2年で形になる一方、教科の学習に使う言語の力は少なくとも5年、上級レベルに達するまで5〜7年かかるとされ、ネイティブの学年相当の基準に届くまで「少なくとも4〜8年」と報告した研究もあります。つまり到達点は素質より、いつ入って何年いるか、その間にどんな支援を受けるかで大きく変わります。
何年住めば英語で授業を理解できるようになりますか?
一律の年数は言えませんが、教科の内容を英語で読み書きして考えるレベルは、少なくとも5年、上級レベルまで5〜7年が一つの目安とされています。ただしこれは母語の読み書きの土台がある場合で、母語と読み書きの力が十分に育っていない段階で切り替えると7〜10年かかるとされます。1〜2年の滞在でも会話力と度胸は確実に変わりますが、「英語で学べる状態」まで届くとは限らない点を前提に計画を立てるのが安全です。
渡航して数か月、まだ英語を話しません。異常ですか?
話し始める前に聞き取りだけが伸びる時期があり、第二言語習得では「沈黙期」と呼ばれます。ただし研究によって定義も期間もばらつきが大きく(数日から1年以上までの報告があります)、「何週間で終わる」という定説はありません。この時期は英語の量を増やすより、聞いて分かっている手がかり(英語の歌を口ずさむ、日本語に英単語が混ざる、先生の名前を英語の発音で呼ぶ等)を見つけて安心する方が有効です。半年以上たっても学校で友だちの輪に入れていない、登校をいやがるといったサインがあれば、学校の英語支援担当に面談を申し込んでください。なお、家庭内でも話さない、表情や行動面の変化が続くなど気になる様子があるときは、「沈黙期だから待とう」と決めつけず、学校の担任・カウンセラーや専門家にご相談ください。
何歳までなら間に合いますか?
「早いほど有利な面はあるが、遅いと手遅れ」ではありません。英語話者66万9,498人のデータを分析した2018年の研究では、文法を学ぶ力は17.4歳ごろまでほぼ保たれると報告されました。後年の再分析では、全学習者に共通するその一つの境目は成り立たないとする指摘も出ています。また教科を学ぶ英語に限れば、渡航時に8〜12歳ごろだった子が最も早く学年基準に届いたという報告もあり、幼いほど必ず速いとは限りません。実務で効いてくるのは年齢そのものより学年の壁で、学校の英語サポートが用意されていない学年や、卒業試験のカリキュラムが始まった後の編入は難しくなります。志望校の英語支援が何年生まで用意されているかを先に確認してください。
帰国したら英語は忘れてしまいますか?
使わなくなった言語には第一言語でさえ変化が起こりうると研究されており、あとから身につけた英語も「置いておけば残る」とは考えにくいのが実情です。一方で、読む・書くところまで届いていた子は、帰国後も英語で読む習慣を続けることで保ちやすくなります。帰国を視野に入れているなら、渡航前の段階から「会話まで」ではなく「読み書きまで持っていく」ことを目標に据えるかどうかを決めておくと判断がぶれません。
主な参考・出典(2026年8月時点)
- Cummins, J. (1979) "Cognitive/Academic Language Proficiency, Linguistic Interdependence, the Optimum Age Question and Some Other Matters." Working Papers on Bilingualism, No.19, pp.121–129(1979年10月)。学習・思考に使う言語力(CALP)を、対人的なコミュニケーション技能と区別した論文。のちに BICS/CALP という呼び方で広まった枠組みの原典(BICS という略語自体はこの論文には登場しません)。eric.ed.gov
- Cummins, J. (1981) "Age on Arrival and Immigrant Second Language Learning in Canada: A Reassessment." Applied Linguistics, II(2), 132–149. academic.oup.com
- Collier, V. P. (1987) "Age and Rate of Acquisition of Second Language for Academic Purposes." TESOL Quarterly, 21(4), 617–641.(英語が十分でない児童生徒1,548人を分析。教科目的の英語でネイティブの学年相当の全国基準に達するまで「at least four to eight years」)eric.ed.gov
- Collier, V. P. "The Effect of Age on Acquisition of a Second Language for School." New Focus(NCBE Occasional Papers No.2, Winter 1987/1988)。渡航時8〜12歳が教科のテストで最も早くネイティブの学年基準に到達/5〜7歳はそれより年数がかかる/12〜15歳が最も困難、と報告。※年数の具体値は同じ著者による別の要約と幅があるため、本文では年数を断定していません。eric.ed.gov
- Snow, C. E. & Hoefnagel-Höhle, M. (1978) "The Critical Period for Language Acquisition: Evidence from Second Language Learning." Child Development, 49(4), 1114–1128.(オランダ語の自然習得の縦断研究。臨界期仮説を支持しなかった)eric.ed.gov
- Kan, R., Jones, S., Meyers-Denman, C. & Sparks, A. (2025) "Emergent bilingual children during the silent period: a scoping review of their communication strategies and classroom environments." Journal of Child Language, 52(3), 558–591.(沈黙期は研究間で定義も期間もばらつきが大きく、数日から1年以上までの報告がある/この時期の子どもは能動的にやりとりしている)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Roberts, T. A. (2014) "Not so silent after all: Examination and analysis of the silent stage in childhood second language acquisition." Early Childhood Research Quarterly, 29(1), 22–40.(12研究を検討し、沈黙期の存在を支持するエビデンスは方法論上の弱さと定義の不明確さにより極めて限定的と結論)
- Colorín Colorado(米国WETA)"What Are BICS and CALP?"(会話レベル=6か月〜2年/学習に使う言語=少なくとも5年。このうち「母語の発達に支えや指導がない場合は少なくとも7年」の一文にのみ Collier & Thomas 1995 が引用されています)colorincolorado.org
- Robertson, K. & Ford, K. "Language Acquisition: An Overview" Colorín Colorado(沈黙期は6週間以上続くことが多い/上級レベルの流暢さまで5〜7年、母語と読み書きの力が十分に育っていない場合は7〜10年。※実務者向けの解説記事であり、「6週間」の数字に一次研究は示されていません)colorincolorado.org
- Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B. & Pinker, S. (2018) "A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers." Cognition, 177, 263–277.(英語話者66万9,498人。文法学習の力は17.4歳ごろまでほぼ保たれ、その後徐々に低下すると報告)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- van der Slik, F., Schepens, J., Bongaerts, T. & van Hout, R. (2022) "Critical Period Claim Revisited: Reanalysis of Hartshorne, Tenenbaum, and Pinker (2018) Suggests Steady Decline and Learner-Type Differences." Language Learning, 72(1), 87–112.(全学習者に共通する17.4歳という一つの境目は成り立たず、学習者のタイプで違うと再分析)onlinelibrary.wiley.com
- Schmid, M. S. (2013) "First language attrition: state of the discipline and future directions." Linguistic Approaches to Bilingualism, 3(1), 94–115.(使わなくなった第一言語にも変化が起こりうること。※同論文は言語知識が想定より頑健である面にも触れています)repository.essex.ac.uk
- 文部科学省 CLARINET「在外教育施設の概要」/「認定した在外教育施設の一覧」(マレーシアの日本人学校4校。※「令和6年4月15日現在で世界49カ国・1地域に94校」という基準日は概要ページの総数に付されたもので、国別一覧には基準日の記載がありません)概要・一覧
- 外務省「海外教育」(外務大臣が指定した在外教育施設=補習授業校の一覧。マレーシアは「ペナン日本人補習授業校」「ペラ日本人補習授業校」の2校。※一覧に都市名の記載はありません)mofa.go.jp
- Mont'Kiara International School「Approved Fee Schedule for 2025–2026 School Year」(EALは Grade 1〜10 が対象・Grade 11・12 には提供しない/費用は学期あたり)料金表PDF・School FAQs
- Nexus International School Malaysia「School Fees」(集中英語プログラムは授業料の20%/1タームあたり・年3ターム制)nexus.edu.my
- Epsom College in Malaysia「Key Stage 3」(Year 7〜9 での EAL による支援)epsomcollege.edu.my
- Mutiara International Grammar School「FAQs」(EALの期間は英語科教員の判定で生徒ごとに異なる)migs.edu.my
※本記事は2026年8月時点で確認できた情報をもとにまとめています。第二言語習得の年数はいずれも研究にもとづく一般的な目安で、個々のお子さんの到達を保証するものではありません。学校の英語支援の学年区分・費用・判定方法は学校の裁量で変わるため、出願にあたっては必ず志望校の公式情報でご確認ください。