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マレーシアの賃貸契約|手順・初期費用・契約書で見る条項【2026年版】

部屋は気に入った。でも、目の前に出てきた英語の契約書に何が書いてあるのか分からない——住まい探しのご相談で、いちばん多い場面がここです。契約の流れと、署名する前に必ず見ておきたい条項を順番に整理します。

先に結論をお伝えします。マレーシアの賃貸契約でいちばん大事なのは、家賃の額ではなく契約書に何が書いてあるかです。理由は単純で、マレーシアには住宅の賃貸を専門に定めた法律がまだ存在しないため、修繕の負担・途中解約・保証金の返し方といった論点は、すべて署名した契約書の記載で決まります。日本のように「法律がここまで守ってくれる」という前提が使えません。この記事では、部屋探しから鍵の受け取りまでの7ステップ、初期費用のうち返ってくるお金と消えるお金の区別、そして契約書で必ず読む7条項を、現地で住まい探しに同行している立場から整理します。

前提:マレーシアには賃貸専用の法律がない

この記事の背骨になる事実から先にお伝えします。マレーシアには、日本の借地借家法にあたる住宅賃貸専用の法律がありません。賃貸をめぐるトラブルは、1950年契約法(Contracts Act 1950)という一般的な契約のルールと、当事者が署名した契約書の記載で判断されます。賃貸だけを扱う専門の審判所(トラブルを裁く行政機関)も設けられていません。

住宅賃借法(Residential Tenancy Act)を作ろうという議論自体は数年来続いていて、2026年8月には上院(Dewan Negara)で住宅・地方政府省の副大臣が「法案を最終調整中」と答弁しています。ただし2026年8月時点で、法案は下院(Dewan Rakyat)に上程されておらず、成立もしていません(上程の時期も未定です)。「近く借主保護の法律ができるらしい」という話は数年前から繰り返されているので、今の契約は今のルールで守るしかない、と考えるのが安全です。

関連する法律としては、1950年特定救済法(Specific Relief Act 1950)と1951年差押法(Distress Act 1951)があります。前者の第7条(2)は、賃貸借が終わったあとも借主が住み続けている場合、貸主は「裁判所の手続きによらなければ」占有を取り戻す権利を行使できないと定めています。つまりオーナーが自力で借主を追い出すことはできません(ただし鍵の交換や電気・水道の遮断そのものについては条文に書かれておらず、それらを違法とするのは弁護士などの解釈にとどまります)。つまり「守ってくれる法律がゼロ」ではありませんが、修繕・解約・保証金といった日常的な論点はカバーされていません。そこを埋めるのが契約書の記載です。

現地からのリアル

日本から来られた方が最初に戸惑うのが、この「契約書がすべて」という感覚です。日本では、契約書に多少不利なことが書いてあっても法律が上書きしてくれる場面がありますが、マレーシアではそうなりません。逆に言えば、署名する前ならかなりの部分が交渉できるということでもあります。私たちがご一緒するときも、「これは書いてもらいましょう」「この一文は削ってもらいましょう」というやり取りに時間をかけます。

契約までの流れ(7ステップ)

マレーシアの賃貸契約は、日本の「申込書を出して審査を待つ」流れとは順番が違います。先にお金を払って部屋を押さえ、そのあとで契約書を作るのが基本形です。

  1. 条件を伝えて物件を絞る

    予算・入居時期・人数・希望エリア・寝室数を不動産エージェントに伝えます。学校が決まっているなら通学時間を最優先の条件にすると絞りやすくなります。

  2. 内見する

    同じコンドミニアムでも部屋ごとに家具や設備の状態が全く違います。写真だけで決めず、水回り・エアコン・網戸・排水のにおいまで見ておきます。

  3. オファーレターに署名し、予約金を払う

    Letter of Offer(申込書にあたる書面)で家賃・期間・入居日などの条件を確定させ、Earnest Deposit(予約金)を払って部屋を押さえます。ここで物件が確保されます。

  4. 書類をそろえる

    パスポート、滞在許可(ビザ)の写し、在学証明や在職証明などをエージェント経由で提出します。この情報で契約書が作成されます。

  5. Tenancy Agreementに署名し、残りの費用を払う

    賃貸借契約書に借主・貸主・立会人が署名します。目安としてオファーレターから1〜2週間程度でこの段階に進みます。保証金や前払い家賃の残額はこのタイミングです。

  6. 鍵の受け取りと引き渡し確認

    備品リスト(Inventory List)を実物と照合し、電気・水道のメーターを検針します。この確認をした記録が、退去時の保証金を守ります。

  7. 契約書に印紙税を納める

    署名から30日以内に印紙税(Stamp Duty)を納めます。印紙を納めていない契約書は、裁判で証拠として扱われません。

専門用語を1行ずつ整理しておきます。Letter of Offer(オファーレター)=借主が条件を提示して部屋を押さえるための書面。Tenancy Agreement(テナンシー・アグリーメント)=賃貸借契約書の本体。Earnest Deposit(アーネスト・デポジット)=物件を確保するための予約金。Inventory List(インベントリー・リスト)=入居時に部屋にある家具・家電・鍵の一覧表。Stamp Duty(スタンプデューティ)=文書に課される印紙税のことです。

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項目マレーシア日本
礼金なしあることが多い
更新料慣習としてないあることが多い
保証金家賃2か月分が慣習1〜2か月分
仲介手数料慣習として貸主が払う借主が払うことが多い
連帯保証人通常は不要保証会社が一般的
家具・家電付いている物件が主流自分でそろえる
専用の賃貸法ない借地借家法がある
契約書の言語英語日本語
途中解約条項がなければ不可通知期間の定めが一般的
借主に有利・負担が軽い同程度注意が必要
▲ 日本の賃貸との違い。初期費用の合計は日本より重くなりがちですが、礼金・更新料・仲介手数料がなく家具付きという点では軽くなります。※マレーシア側はいずれも市場の慣習で、法律で定められた金額ではありません(ルシュエット作成)

初期費用の内訳|返ってくるお金と消えるお金

初期費用は家賃の約3.5〜4か月分+印紙税など実費が一般的な目安です。ただし金額を覚えるより、「返ってくるお金なのか、消えるお金なのか」で分けて理解するほうが実用的です。同じ3.5か月分でも、性質が違えば交渉の余地も違います。

項目目安退去時に戻る?
予約金(Earnest Deposit)家賃1か月分多くは前払い家賃に充当
保証金(Security Deposit)家賃2か月分戻る(損傷分は控除)
光熱費の保証金(Utility Deposit)家賃0.5か月分戻る(未払い分は控除)
前払い家賃家賃1か月分戻らない(初月分の家賃)
印紙税年間賃料に応じて戻らない
アクセスカード・鍵実費(1枚あたり数十〜数百リンギット)物件により保証金扱い

※上記はいずれも市場の慣習で、マレーシアには賃貸の保証金額に上限を定めた法律がありません。物件・オーナー・契約期間によって条件は変わります。金額の目安はクアラルンプールの家賃相場もあわせてご覧ください。

印紙税は2025年1月に計算方法が変わった

初期費用のなかで注意が必要なのが印紙税です。2025年1月1日以降に結ぶ契約では、年間賃料をRM250(またはその端数)で割った単位数に、契約期間に応じた金額をかけて計算します。1年以下ならRM1.00、1年超3年以下ならRM3.00です。この印紙税は、マレーシアの法律上借主が納めると定められています(契約書の控えの分は貸主負担)。

家賃RM3,000の物件なら年間賃料はRM36,000。RM250で割って144単位となり、1年契約ならRM144(約5,600円)、2年契約なら1単位あたりRM3.00になるのでRM432(約1.7万円)です。同じ家賃でも契約期間を延ばすと印紙税の総額は上がるので、期間を決めるときに一緒に確認しておくと安心です。

ここで気をつけたいのは、「年間賃料RM2,400までは非課税」という控除が2025年1月1日に廃止されている点です。この控除を前提にした古い解説が日本語・英語ともに今も多く残っているので、他のサイトで金額を試算するときは情報の時点をご確認ください。計算・納付期限・自己申告制(STSDS)への移行といった実務面はクアラルンプールの家賃相場の記事で詳しく整理しています。

※税制・料率は改定されることがあります。上記は2026年8月時点で確認した内容です。実際の納付額と手続きは、契約前にLHDN(マレーシア内国歳入庁)の公式情報、または不動産エージェント・弁護士にご確認ください。

仲介手数料は誰が払うのか

マレーシアでは仲介手数料は貸主(オーナー)が払うのが市場の慣習です。不動産業を監督する政府機関(BOVAEP)が公表している報酬表(Seventh Schedule)では、契約期間3年までの賃貸仲介は月額家賃(gross rental)の1.25か月分が上限、最低額は家賃1か月分と定められています。1年未満の契約は日割り計算が可能です。

ただし2点、注意があります。ひとつは、この上限表はサービスアパートメントやサービスオフィスなど類似の物件には適用されないと明記されている点。もうひとつは、上限表が「依頼者が払う」と書くだけで貸主・借主のどちらが負担するかは規定していない点です。慣習は貸主負担ですが、借主に請求することが法律で禁じられていると断定できる根拠は確認できていません。手数料の請求を受けたら、誰が払う契約なのかをその場で確認してください。

家賃にサービス税はかかるのか

結論から言うと、住宅として借りる場合の家賃にサービス税(SST)はかかりません。2025年に不動産の賃貸・リースがサービス税の課税対象に加わりましたが、そのときの官報で「住宅(housing accommodation)の賃貸は除く」と明記されました。しかもこの「住宅」の定義には、SOHO・サービスアパートメント・サービスコンドミニアム・レジデンシャルスイートが含まれると条文に書かれています。留学中の方が借りることの多い形態が、はっきり非課税側に入っています。返還される保証目的のデポジットにも課税されません。

一方で不動産仲介業のサービスには税がかかります。仲介手数料を借主が負担する契約になっている場合は、この分も見ておく必要があります(税率は改定されることがあるため、請求書の内訳で確認してください)。「家賃は非課税、仲介手数料は課税」という非対称を押さえておくと、見積もりを見たときに混乱しません。

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トラブルを防ぐために確認したい7つの条項

ここがこの記事の本題です。Tenancy Agreementは英語で10〜20ページほどあり、全部を精読するのは現実的ではありません。トラブルになりやすいのは、おおむね次の7か所に集まります。署名の前に、この7項目だけはご自身の目でも確認しておくことをおすすめします。実際の契約書で使われる英文の言い回しも添えます。

① 小修繕の負担ライン(Minor Repair)

The Tenant shall bear the cost of minor repairs not exceeding RM___ per item.

1件あたり一定額までの小修繕は借主負担、それを超えたら貸主負担、という線引きです。実務では1件あたりRM150〜300程度で設定されることが多いようですが、これは法律で決まった金額ではなく、契約で決める交渉事項です。空欄のまま署名すると、どこまでが自分の負担なのか分からなくなります。金額が入っているかを必ず見てください。

② エアコンの清掃・修理の負担

The Tenant shall at their own expense service and clean all air-conditioning units at least once every six (6) months by a recognized technician.

マレーシアはエアコンを一年中使うため、定期清掃を借主負担・期間を指定して義務づける条項が一般的です。コンプレッサーや基板の故障は貸主負担とするのが多数ですが、ガスの補充や薬品洗浄(ケミカルウォッシュ)の負担者は情報源によって扱いが分かれます。各社の解説で一致しているのは「定期清掃を怠った結果の故障は借主負担になる」という点だけです。清掃の領収書は保管しておいてください。

③ 通常損耗は借主のせいではない(Fair Wear and Tear)

…in good and tenantable repair and condition, fair wear and tear excepted.

fair wear and tear excepted=「通常の使用による劣化は除く」という一文です。これが入っていれば、日常的な使用で生じた劣化について借主が交換費用を負担する必要はありませんとマレーシアの法律事務所も解説しています。5年使ったエアコンの効きが落ちるのは通常損耗、物を投げて室外機を割ったのは損傷——この線引きです。この一文が入っているかを確認してください。

④ 中途解約の条項(Break Clause)

Either party may terminate this Agreement after the expiry of twelve (12) months by giving two (2) months' written notice.

この条項がなければ、途中解約は原則として契約違反です。保証金が返らないだけでなく、残りの期間の家賃を請求される可能性もあります。「最低○か月は住む+○か月前の書面通知で解約できる」という形が一般的ですが、通知期間が1〜3か月と情報源によってばらけており、「これが標準」と言える数字はありません。契約書に書かれた日数がそのままルールになります。

⑤ 転勤・帰国のための解約条項(Diplomatic Clause)

…in the event the Tenant is transferred out of Malaysia or the Tenant's employment is terminated…

転勤や雇用終了で国を離れる場合に解約できる条項です。駐在員の契約では使われますが、「マレーシアの標準仕様」ではなく交渉事項で、一般的なひな形には入っていません。オーナーが応じない場合や、この条項を入れる代わりに家賃を見直されるケースもあります。留学の場合は「学業を早期に終了した場合」を発動事由に含めてもらう交渉が実務的です。

⑥ 保証金の返還期限

The Deposit shall be refunded within fourteen (14) days from the date of expiry of this Agreement.

マレーシアには保証金の返還期限を定めた法律がありません。14日・21日・30日といった日数はすべて契約上の取り決めです。つまり契約書に日数が書かれていなければ、「いつまでに返す」という約束が存在しないことになります。ここは必ず日数を入れてもらってください。あわせて「控除する場合は明細と領収書を提示する」という一文を入れておくと、退去時の話し合いが具体的になります。

⑦ 備品リスト(Inventory List)が添付されているか

…as listed in the Inventory attached hereto as Annexure A, duly signed by both parties.

保証金をめぐる争いで、いちばん効くのがこの添付書類です。家具・家電・鍵の本数と状態を一覧にし、双方が署名して契約書に添付します。あわせて、荷物を入れる前に全室を日付入りの写真か動画で撮っておいてください。既存の傷を撮っておくだけで、退去時に「これは元からあった」と示せます。小さなお子さんと暮らす場合は、壁・床・ソファなど傷や汚れが付きやすい場所を特に細かく撮っておくと安心です。撮った写真は、入居後できるだけ早くエージェントやオーナーへメール等で送り、受け取ったという記録を残しておくとより確実です(契約書に不具合の報告期間が定められている場合は、その期間内に送ってください)。

現地からのリアル

私たちが立ち会うときに必ず時間をかけるのが、この⑥と⑦です。保証金の話は、退去のときに揉めるのではなく、入居の日にどれだけ記録を残したかで結果が決まります。写真は「部屋がきれいに見えるように」ではなく、傷やシミが分かるように撮ってください。

もうひとつ、契約書は必ず自分の分を1部受け取って保管してください。印紙を納めた証明書の控えも一緒です。銀行口座を開くときに住所証明を求められることがあり、CIMBは公式サイトで「印紙を納付した賃貸契約書(stamped Tenancy Agreement)」を住所証明の例として挙げています(必要書類は銀行と滞在許可の種類によって違うので、口座開設の前に各行の公式案内でご確認ください)。「口座がないと部屋が借りられない」と思われている方が多いのですが、順番はむしろ逆で、契約書が先になります。

契約前に用意する書類(滞在許可別)

まず知っておいていただきたいのは、マレーシアの当局は「賃貸契約に必要な書類」を法令で定めていないということです。求められる書類はオーナー側の与信確認であって、政府の要件ではありません。だから物件によって要求が違います。

もうひとつ、お子さんの留学で見落とされやすいのが「誰が契約するか」です。マレーシアでは1971年成年年齢法により成年は18歳(第2条)で、1950年契約法第11条は成年に達した人に契約能力を認めています。つまり18歳未満のお子さんは原則として賃貸借契約の当事者になれず、契約の名義は保護者になります(大学生など成人の留学生は本人名義で契約できます)。

そして法律上、外国人であることを理由に賃貸契約が一律に制限されているわけではありません。どの滞在許可(パス)を持っているかで、求められる書類が変わります。外国人に対する制限は「不動産を購入する場合」に設けられているもので、借りることそのものを制限する規定は確認できませんでした。ただし制度上は借りられても、オーナー個人の判断や審査基準で断られること自体はあります(これは日本人に限った話ではありません)。

滞在許可求められることが多い書類
学生パス(大学生など成人本人)パスポート、学生パス、学校の入学許可書または在学証明、支払い能力の証明、保証人(求められる場合)
学生パス(未成年のお子さん)お子さんのパスポート・学生パス・在学証明に加えて、契約の名義は保護者になります(保護者のパスポート・滞在許可・支払い能力の証明)
保護者の帯同パスパスポート、帯同パス、スポンサー(子の在学先など)の書類
就労パスパスポート、就労パスの写し、在職証明、直近の給与明細
MM2Hパスポート、MM2Hの承認レター、資金の証明

※上記は現地の実務でよく求められる書類で、法令上の要件ではありません。物件・オーナーによって内容は変わります。滞在許可の申請そのものについてはマレーシアのビザの種類をご覧ください。

保証金が返ってこないとき、どこへ行くのか

ここは日本語の情報が少なく、しかも間違った案内が流れている論点なので、はっきり書いておきます。

まず、返してもらえないケースで最も多いのが「退去時の再塗装(repainting)費用」として控除されるパターンです。数年住んだ後の全面的な塗り直しは通常損耗として貸主の負担にあたるという解説がある一方、契約書に「退去時に再塗装する」と書かれていれば有効になり得ます。だから③のfair wear and tearと⑦の備品リストが効いてきます。

そのうえで、話し合いで解決しない場合の出口です。賃貸の保証金トラブルは、マレーシアの消費者請求審判所(TTPM)では扱えません。1999年消費者保護法は、その第2条(2)(d)で「土地または土地上の権利に関して」この法律は適用しないと定めており、審判所の管轄を定めた第99条(1)にも土地に関する請求の除外が置かれています。「消費者審判所に申し立てられる」と案内する記事がありますが、法令の条文と矛盾しています。住宅購入者向けの審判所も、対象は購入者と開発業者の間の紛争なので使えません。

実際の出口は治安判事裁判所(Magistrates' Court)です。請求額がRM5,000以下なら少額請求(Small Claims)の手続きが使えます。この手続きには2つ特徴があります。ひとつは原告になれるのは個人だけ(法人は原告になれません)。もうひとつは弁護士を立てられないこと——「弁護士なしでもできる」ではなく、規則で代理人を立てることが禁じられています。RM5,000を超える請求は通常の民事訴訟になり、治安判事裁判所が扱えるのはRM100,000までです。

ここで実務的に重要な計算をしておきます。家賃RM3,000の物件なら保証金2か月分はRM6,000。この時点で少額請求の枠(RM5,000以下)を超えます。つまり「少額請求で取り返せる」という話が成り立つのは、家賃がおおむねRM2,500以下の場合です。それ以上の家賃帯では、訴訟前提ではなく「揉めない契約書と入居時の記録」で守るしかない——これが現実的な結論です。

※裁判手続きの区分・手数料・管轄は改定されることがあります。実際に法的手段を検討される場合は、必ず現地の弁護士にご相談ください。

1年未満の短期滞在はどう借りるか

マレーシアの一般的な賃貸は1年契約または2年契約で、これは短期留学や「まず数か月試したい」というご希望と噛み合いません。競合する記事の多くが「最低1年」で説明を止めてしまうところですが、実際には次の選び方になります。

3か月前後なら、賃貸ではなくサービスアパートメントや家具付きの短期滞在向け物件が現実的です。家賃は割高になりますが、初期費用が軽く、契約の縛りもありません。前述のとおりサービスアパートメントの家賃もサービス税は非課税側に分類されています。6か月から1年なら、ルームレンタル(一戸を複数人で借りる形式の個室)という選択肢もあります。保証金が1か月分程度に抑えられている募集も見られますが、条件は物件ごとに大きく異なります。

1年契約を結んだうえで④の中途解約条項を入れてもらうのも手ですが、オーナーが応じるかは物件次第です。滞在期間が読めないうちは、まず短期滞在型に入って、住むエリアと学校が固まってから年契約に移るという二段構えが、結果的に損が少ないケースが多いと感じています。滞在日数の制度面はマレーシアの長期滞在で整理しています。

日本人がつまずく5つのポイント

1. 予約金を払う前に、それが何のお金かを確認する

予約金が前払い家賃に充当されるのか、それとも別建てで、こちらの都合で契約に至らなかった場合に戻らないのか——物件によって扱いが違います。払う前に書面で確認してください。

2. 家賃だけで比較しない

コンドミニアムでは、家賃とは別に管理費や駐車場代を借主負担とする契約があります。なお管理費と修繕積立金の支払い義務は、2013年区分所有管理法(第25条・第52条・第60条=管理の段階によって条文が変わります)により法律上は所有者にあります。契約書で借主負担と書かれていても、管理組合が請求する相手はオーナーです。誰が実際に払うのかを確認してください。

3. 商業タイトルの物件は光熱費が上がる

サービスアパートメントやSOHOは、見た目は住宅でも土地の区分が商業用という物件があります。この場合、電気・水道が商業料金になり、住宅区分の物件より光熱費が高くなる傾向があります。内見のときに住宅区分か商業区分かを聞いておくと、入居後の請求で驚きません。

4. オーナーが物件を売却するリスクを知っておく

これはあまり知られていない論点です。マレーシアの国土法典では、登記が免除された賃貸借契約は、権利証への裏書(endorsement)で保護されていない限り、オーナーが物件を売却したときに新しいオーナーを拘束しないと定められています。3年以下のテナンシーは登記が不要なので、多くの契約がこの状態にあたります。売却の可能性がある物件では、契約書に売却時の扱いを書いてもらう交渉や、裏書の手続きができるかの確認が意味を持ちます。

5. 個人ブログ1本で判断しない

この記事で見てきたとおり、印紙税は2025年に計算方法が変わり、サービス税は2025年に賃貸が課税対象に加わりました。数年前の体験談は、金額の部分がそのまま古くなっています。制度に関わる数字は、必ず情報の時点を見てください。

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よくある質問

マレーシアの賃貸契約は何年契約が一般的ですか?

1年契約または2年契約が一般的です。マレーシアでは契約期間が3年以下のものを「テナンシー(tenancy)」と呼び、土地登記が不要なぶん手続きが簡単です。3年を超える契約はリース(lease)として扱われ、国土法典の定める様式(Form 15A)で登記所または土地事務所に登記する必要があります。また契約書に課される印紙税は契約期間が長いほど1単位あたりの金額が上がるため、2年契約は1年契約より印紙税の総額が高くなります。

マレーシアで部屋を借りるとき、初期費用はいくら必要ですか?

慣習として、保証金(家賃2か月分)・水道光熱費の保証金(家賃0.5か月分)・前払い家賃(1か月分)を合わせた家賃の約3.5か月分に、印紙税とアクセスカードの実費が加わるのが一般的な目安です。物件を押さえるために先に払う予約金は、多くの場合この前払い家賃に充当されます。ただしこれらは法律で決まった金額ではなく、あくまで市場の慣習です。マレーシアには賃貸のデポジット額に上限を定めた法律がないため、物件やオーナーによって条件が変わります。

契約期間の途中で解約できますか?

契約書に中途解約の条項(break clause)が書かれていない場合、途中解約は原則として契約違反にあたります。保証金が返らないだけでなく、残りの期間の家賃を請求される可能性もあります。マレーシアには借主を保護する専用の賃貸法がないため、途中解約できるかどうかは契約書の記載で決まります。滞在期間が読みきれない場合は、署名する前に「何か月前の通知で解約できるか」を条項として入れてもらう交渉が必要です。

学生ビザ(学生パス)でもマレーシアで部屋を借りられますか?

借りられます。マレーシアの当局は「賃貸契約に必要な書類」を法令で定めておらず、求められる書類はオーナー側の与信確認にすぎません。学生パスの場合はパスポート・学生パス・学校の入学許可書や在学証明に加えて、支払い能力の証明や保証人を求められることがあります。ただし1971年成年年齢法により成年は18歳で、1950年契約法第11条は成年に達した人に契約能力を認めているため、18歳未満のお子さんの場合は契約の名義が保護者になります。外国人であることを理由に一律に制限されているわけではなく、どの滞在許可を持っているかで必要書類が変わる、と考えると分かりやすいです。

主な参照元(2026年8月時点で確認)

本記事の制度・税・法令に関する記述は、次の一次情報をもとにしています。金額や制度は改定されることがあるため、実際のご契約前には最新の公式情報、または不動産エージェント・弁護士にご確認ください。

  • 印紙税の料率・納付期限・納税義務者/マレーシア内国歳入庁(LHDN)「印紙税賦課ガイドライン(第一附則)」、1949年印紙法 第一附則 Item 49(a)・第33条・第三附則、2024年財政法(Act 862)、LHDN「印紙税自己申告制度(STSDS)」
  • 住宅賃貸のサービス税の非課税・仲介業の課税/マレーシア関税局(RMCD)掲載のサービス税規則および同改正官報、サービス税に関する公式FAQ
  • 不動産仲介報酬の上限/評価士・鑑定士・不動産仲介士・資産管理士委員会(BOVAEP)公表の報酬表(Seventh Schedule / Rule 48)
  • 賃貸に適用される一般法・専用法の不在/1950年契約法、1950年特定救済法、1951年差押法、住宅賃借法案に関する2026年8月の国会答弁および報道
  • テナンシーとリースの区別・登記/マレーシア国土法典(賃貸借および賃借権に関する規定)
  • 管理費・修繕積立金の支払義務者/2013年区分所有管理法(Act 757)第25条・第52条・第60条
  • 少額請求手続きと管轄/2012年裁判所規則 第93命令(少額請求手続)、1948年下級裁判所法 第90条、マレーシア司法府(kehakiman.gov.my)の民事手続き案内
  • 契約能力と成年年齢/1950年契約法 第10条・第11条、1971年成年年齢法 第2条
  • 消費者請求審判所の管轄/1999年消費者保護法 第2条(2)(d)・第99条(1)
本記事に記載した費用・制度・学校情報は、2026年8月時点に公開されている情報にもとづく目安です。為替はRM1≒38.7円で換算しています。制度や料金は改定されることがあるため、お申し込みの前に各公式サイト、または当社までご確認ください。