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マレーシア法人・進出ガイド

マレーシアの駐在員事務所・支店とSdn Bhdの違い|選び方【2026年版】

「まず駐在員事務所から」「支店のほうが手軽らしい」——マレーシア進出の相談で、いちばん最初に迷うのがこの三択です。公式ガイドラインと会社法の条文で、何がどう違うのかを整理しました。

結論から言うと、この三択のいちばん大きな分かれ目は「マレーシアで売上を立てるか」と「何年いるつもりか」の2つです。駐在員事務所は商業活動が禁じられていて売上を立てられません。支店とSdn Bhdは事業を行えますが、支店は日本の本社と同じ法人、Sdn Bhdはマレーシアの別法人という違いがあります。この記事では、MIDAのガイドライン・会社法2016の条番号・SSMの手数料表といった公式情報の出どころを示しながら、要件・費用・税金・就労ビザ・撤退の順に整理します。

結論:3形態は「売上」と「年数」で選び分ける

3つの形態は「規模の大小」で並んでいるわけではありません。マレーシアで売上を立てられるのはSdn Bhdと支店だけで、駐在員事務所は情報収集と調整のための拠点です。ここを取り違えたまま進めると、あとから作り直しになります。

ただし最後は、業種の外資規制やWRTなどのライセンスの要否、払込資本を用意できるかとの兼ね合いで決まります。売上と年数はいちばん最初に切る軸であって、それだけで結論が出るわけではありません。

そしてこの選択は、社内の手続きの話だけで終わりません。形態によって滞在できる年数の見込みが変わり、年数が変わると帯同されるお子さんに合う学校の候補も変わってきます。2年で戻る前提と、5年以上いる前提とでは、カリキュラムの選び方も帰国後の見通しも変わるためです(実際には、お子さんの年齢や帰国生入試の要件も絡みます)。ご家族の予定と切り離さずに決めてください。まず全体像を、意思決定に使う軸で並べます。

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比べる項目駐在員事務所(RE/RO)支店(外国会社登録)Sdn Bhd(現地法人)
マレーシア法人か△ 法人化は不要△ 日本本社と同一法人◎ 別法人
売上を立てられるか× 商業活動は禁止○ できる◎ できる
承認・登録の窓口MIDASSMSSM
登録・設立の実費◎ 登記料なし△ RM5,000〜70,000◎ RM1,000
維持で求められるお金△ 年RM30万〜60万の運営支出○ 監査・年次提出○ 監査・年次提出
マレーシア側に置く人駐在員(管理職・技術職)居住者のagent常居住の取締役・会社秘書役
置ける期間△ 最低2年・延長は個別判断○ 期限なし◎ 期限なし
中小企業向け軽減税率- 売上を立てないため論点にならない× 対象外△ 外資100%だと使えない
家族の帯同(Dependent Pass)形態では変わらず、EP保持者の給与とEPの区分で決まる(月RM5,000超が申請の前提)
◎ 強み○ ふつう△ 制約・注意
▲ マレーシア進出3形態の比較。MIDA「RE/ROガイドライン」(2023年3月24日時点版)、会社法2016、SSMの手数料表、内国歳入庁(LHDN)の公表内容をもとにルシュエット編集部が作成。評価は一般的な傾向で、業種と持分構成によって変わります。

その前に:何も設立せずにできる範囲が法律で決まっている

意外に知られていないのですが、会社法2016の第561条(2)と第13附則は「これだけならマレーシアで事業を行っているとはみなさない」行為を列挙しています。ここに収まるなら、そもそも何も設立せずに済みます。

列挙されているのは、訴訟や仲裁の当事者になること、取締役会や株主総会といった内部の事項、銀行口座の維持、独立契約者を通じた販売、マレーシア国外で承諾されてはじめて拘束力を持つ注文の勧誘・取得、債権の回収、資金の投資や財産の保有、31日以内に完了する反復的でない単発の取引、展示・実演・見本用の一時輸入などです。

逆に言うと、この範囲を超えて事業を行うのに何も登録していない状態は、第561条(1)違反にあたります。同条(4)では、外国会社だけでなくその役員も対象になると定められています。「日本から出張ベースで売っているだけ」という状態が、どちらに当たるのかは条文の当てはめです。判断が微妙なときは、進出の形を決める前に現地の弁護士か会社秘書役事務所に当ててみてください。

現地からのリアル

ご相談を受けていて多いのが、「とりあえず駐在員事務所から始めて、軌道に乗ったら現地法人にする」という進め方の想定です。日本で語られている定番の順序ですが、マレーシアの制度はその順序を前提に作られていません。

駐在員事務所は更新のたびに求められる運営支出が上がり、しかも一定の回数で打ち止めになる設計です。ガイドライン自体が「期限後は会社法にもとづく子会社の設立を推奨する」と書いています。最初から「2〜4年で法人化する」という前提で組むなら合理的ですが、様子見の器としては期待外れになりやすい形態です。

駐在員事務所(RE/RO)——法人ではないが承認が要る

駐在員事務所は、マレーシア投資開発庁(MIDA)の承認で置く「非法人の拠点」です。MIDAのガイドラインは、会社法2016にもとづいて法人化する必要はないと明記しています。SSMへの設立登記が不要なぶん、入口はたしかに軽くなります。

用語を整理しておきます。RE(Representative Office)は駐在員事務所で、マレーシア市場そのものを見る拠点です。RO(Regional Office)は地域事務所で、東南アジア域内の関連会社や代理店の調整を担う拠点を指します。どちらも同じガイドラインで扱われますが、後述するとおり駐在員の課税の考え方が違います。

できること6つ、できないこと4つ

MIDAのガイドラインが認めているのは、投資・事業機会の情報収集と分析、フィージビリティスタディ、事業活動の企画と調整、原材料や部品の調達先の特定、研究開発、域内の関連会社・子会社・代理店の調整、そして「実際の商取引に直接つながらないその他の活動」です。

禁止されているほうが重要です。日本語の解説では「営業活動はできない」とだけ書かれがちですが、ガイドラインの禁止事項はもう少し広く取られています。

禁止されている行為実務でひっかかりやすい場面
貿易(輸出入を含む)・事業・あらゆる形態の商業活動サンプル品の有償提供、少額でも代金を受け取る取引
倉庫のリース出荷・積替え・保管は現地の代理店か販売店が扱う必要があります
外国法人を代理して事業契約に署名すること、有償でサービスを提供すること本社の契約書に所長がサインする、業務委託料を受け取る
マレーシア国内の子会社・関連会社・支店の日常的な経営への参加すでにあるSdn Bhdの管理を駐在員事務所の所長に兼務させる構成

※MIDA「Guidelines for Setting Up a Representative Office / Regional Office」(2023年3月24日時点版)にもとづく整理です。なお「請求書を発行できるか」という論点について、ガイドラインに invoice という語は出てきません。商業活動と有償サービスが禁じられている以上、実務上は発行できないと読めますが、明文の禁止規定として断定はできない部分です。

4つ目の「子会社の日常経営への参加」は、日本企業がとくに踏みやすい線です。すでにマレーシアに子会社があり、そこへ出向させる代わりに駐在員事務所を置いて所長が実質的に子会社を回す、という構成は抵触するおそれがあります。組織図を描く段階で確認しておいたほうが安全です。

年間RM30万、延長するとRM60万——見落とされる運営支出

駐在員事務所の「安さ」を打ち消すのが、この運営支出(OPEX)の条件です。ガイドラインは、最低額か申請者の提案額のうち高いほうを満たすことを求めています。

申請者の区分新規1回目の延長それ以降の延長
外国政府機関・機関・大学年RM300,000年RM300,000年RM300,000
外国企業(コングロマリット以外)年RM300,000年RM600,000該当なし
外国企業(コングロマリット)年RM300,000年RM600,000年RM1,000,000

※MIDA「RE/ROガイドライン」(2023年3月24日時点版)。RM300,000は約1,160万円、RM600,000は約2,320万円、RM1,000,000は約3,870万円(RM1≒38.7円で換算した目安)。この資金はマレーシア国外から賄うことが条件とされています。

ここで効いてくるのが、コングロマリット以外の外国企業には「それ以降の延長」の欄に「該当なし(Not applicable)」と書かれている点です。ガイドラインも、承認の期限が来たら会社法にもとづく子会社の設立を推奨すると述べています(5.10)。長く置き続けるための器としては想定されていないと読むのが自然です。

※ただしこの欄は運営支出の金額表の一部なので、「2回目以降の延長が制度上できない」と断定できるものではありません。長く置く前提で検討される場合は、申請の段階でMIDAに直接ご確認ください。

オフィスにも条件があります。商業用のオフィス物件でなければならず、住居は認められません。事務所の名称は親会社と同じであることが求められ、活動状況は12か月ごとにMIDAへ報告します。従業員はSOCSO(社会保障機構)とEPF(従業員積立基金)への登録・拠出が必要です。

期間は「最低2年」。5年上限という説明の扱い

日本語の解説では「最長5年まで更新できる」という記述をよく見かけますが、現行のMIDAガイドラインにその数字はありません。書かれているのは「最低2年」と「延長は個別案件の内容に応じて判断する」ことだけです。延長申請は期限の3か月前までに行います。

年数を前提に事業計画を組むと、更新が通らなかったときに立て直せません。ガイドライン上の期間は最低2年で、その先は保証されていない——この読み方で計画してください。

駐在員を送る条件と、REとROで違う課税

駐在員事務所でも人を送れます。ただし対象は管理職・技術職に限られ、最低基本給は月RM5,000(または提案額のうち高いほう)とされています。約19万円です。Employment Passは1年有効で、毎年更新します。

学歴と経験の要件は、学位なら実務3年以上、ディプロマなら5年以上、高卒なら10年以上です。従業員構成は駐在員2名に対しマレーシア人1名が理想とされています。MIDAの就労ビザガイドライン(2026年6月1日版)でも、RE/ROは対象セクターに明記されています。

見落とされやすいのが課税の違いです。ガイドラインでは、REの駐在員は通常どおり所得税の対象となる一方、ROの駐在員はマレーシアでの滞在日数に応じて按分課税されるとされています。域内を飛び回る役割の人ほど、手取りの前提が変わります。実際の申告は個人の滞在日数で決まるため、赴任前に税理士へご確認ください。

支店(外国会社の登録)——登録料はSdn Bhdの5倍から

支店は、日本の会社そのものをマレーシアで「外国会社」として登録する形です。会社法2016の第III編(第561条〜第579条)が根拠になります。新しい法人を作るわけではないため、支店の債務は日本の本社に帰属します。ここが、別法人であるSdn Bhdとの最大の違いです。

手続きの流れ自体は重くありません。社名は本国の登録名と同一である必要があり、社名予約はRM50(30日ごと・最長180日)。承認から30日以内に登録申請を行い、SSMの案内では登録通知は1営業日以内に発行されるとされています。本国の設立証明書や定款の認証謄本を添え、英語かマレー語以外なら認証翻訳が必要です。

登録手数料は、日本の本社の資本金で決まる

「支店のほうが簡易で安い」という一般的な言われ方は、登録費用については逆になることが多いと考えてください。外国会社の登録手数料は、本国の資本金をリンギット換算した金額で段階的に決まります。

本国の資本金(リンギット換算)登録手数料円換算の目安
RM100万以下RM5,000約19万円
RM100万超〜1,000万RM20,000約77万円
RM1,000万超〜5,000万RM40,000約155万円
RM5,000万超〜1億RM60,000約232万円
RM1億超RM70,000約271万円
資本の定めがない場合RM70,000約271万円

※SSM「Guidelines for Registration of Foreign Company」および手数料表(会社法2016 第562条)にもとづく金額です。為替はRM1≒38.7円で換算した目安。Sdn Bhdの設立登記はRM1,000(約3.9万円)なので、いちばん安い区分でも支店は5倍になります。日本の親会社が大きいほど差が開く構造です。なお、どの金額を「本国の資本金」として取るか(資本準備金を含めるか)と、リンギット換算に使う為替の基準日については、申請を依頼する会社秘書役事務所に事前に確認しておくと見積もりがぶれません。

マレーシア居住のagentが必須で、agentは罰則を個人で負う

支店には、Sdn Bhdの「常居住の取締役」に相当する要件として、マレーシア居住者のagent(代理人)を常時置く義務があります(第563条(1))。選任状か委任状で選任し、登録時に就任同意の陳述書を添付します(第562条)。

ここは慎重に扱ってください。同条は、agentが会社法上で会社が行うべき一切の行為について責任を負い、会社の違反に科される罰則について個人的に責任を負うと定めています(裁判所に責任を負うべきでないと認めさせた場合を除く)。現地スタッフや外部の事務所にagentを依頼する場合、この負担を説明したうえで引き受けてもらう必要があります。agentの登録事項が変わったときは14日以内に届け出ます。

日本本社の財務諸表を、マレーシアで提出することになる

「支店は会計が簡単」という理解も、条文とは食い違います。第574条はマレーシアでの営業に関する会計記録をマレーシア国内に保管し、監査を受けることを求めています。さらに第575条(1)は、年次株主総会から2か月以内に、本国の法令で作成が求められる財務諸表の写しを登記官へ提出することを求めています。

日本の親会社の数字が、マレーシア側の登録情報として提出されるということです。非上場で財務情報を出していない企業にとっては、支店を選ばない理由になり得ます。登記上の事務所はマレーシア国内に常時置き、営業所の設置または事業開始から30日以内に届け出ます(第566条)。

どの形態が御社の目的に合うか、条件を並べて整理します

「売上を立てるのか」「誰を何年送るのか」「業種に外資規制はあるか」を並べると、選ぶべき形はかなり絞れます。
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Sdn Bhd(現地法人)——唯一「普通に商売ができる」形

Sdn Bhd(Sendirian Berhad)は、日本の株式会社にあたる非公開の株式有限責任会社です。3形態のなかで、制約なく事業を行い、就労ビザの土台にもなり、日本本社と責任が切り離される唯一の形です。実務でいちばん多く選ばれます。

設立の要件は会社法2016に定められています。株主は1名から(法人株主も可、非公開会社は50名まで/第42条(1))、取締役は1名から(18歳以上の自然人/第196条(1)(2))。最低員数にあたる取締役は「マレーシアに主たる居所を持ち、通常マレーシアに居住している」ことが必要です(第196条(4))。設立から30日以内に会社秘書役を任命し、この会社秘書役はマレーシア市民か永住者でなければ務まりません(第235条・第236条(2))。

費用は社名予約RM50と設立登記RM1,000が中心で、これに会社秘書役の報酬が乗ります。年次申告(Annual Return)は非公開会社でRM150です。設立の手順・実費・設立後に続く義務はマレーシアで会社を設立する方法で詳しく整理していますので、Sdn Bhdに絞って検討される場合はそちらをご覧ください。

「居住取締役」は国籍要件ではない

ここは誤解が多い部分です。第196条(4)(a)が求めているのはマレーシアに主たる居所を持ち常居していることで、マレーシア国籍であることは条件になっていません。マレーシアに住んでいる日本人でも要件を満たし得ます。

ただし「常居している」の判定基準は条文にもSSMのガイドラインにも定義がありません。そのため、会社秘書役事務所によって「日本人だけで作れます」「現地の取締役が必要です」と説明が割れます。相談する際は、その事務所が第196条(4)をどう解釈しているかを最初に確認してください。名義だけの取締役を立てる実務も広く行われていますが、取締役は会社法上の義務と責任を負う立場なので、名義貸しの前提で組むのは避けたほうが安全です。

外資100%にできるかどうかは業種で決まる

「Sdn Bhdなら外資100%で作れる」という説明は、業種によって当てはまりません。製造業は工業調整法1975のもとで原則100%外資が可能とされていますが、水・エネルギー・電力供給・放送・防衛・保安といった国家権益に関わる事業は、外資の出資比率が30%または49%に制限されています

流通・サービスは「流通取引・サービスへの外国資本参入ガイドライン」(2020年2月改訂)で3つに分かれます。百貨店・スーパーマーケット・専門店・流通センターは資本規制なし、ハイパーマーケットとコンビニエンスストアは外資30%以下かつブミプトラ資本30%以上、ミニマーケット・雑貨店・ガソリンスタンド・生鮮市場などは外資の参入が認められていません。飲食や小売を考えている場合は、形態の前に業種の可否から確認してください。

税金の違いは、形態ではなく「経営と支配の所在」で決まる

「支店は非居住者だから高い、Sdn Bhdは居住者だから安い」という単純化を、まず外してください。LHDNの判定基準は、基準年のいずれかの時点で事業の経営と支配(management and control)がマレーシアで行われているかどうかです。登記の形ではありません。

したがって、取締役会が実質的に日本で開かれ続けるSdn Bhdは居住法人の前提が崩れる可能性がありますし、逆に現地で意思決定が完結する支店が居住と判定される余地もあります。形態を決める前に、誰がどこで意思決定するのかを決めておいてください

標準は24%、中小企業の階段は15%と17%

マレーシアの居住法人には、中小企業(MSMC)向けの税率の階段があります。課税所得の最初のRM150,000が15%、RM150,001〜600,000が17%、それを超える部分が24%です。条文の建て方としては原則24%で、要件を満たした会社だけが軽減税率を使えます。

要件は、基準期間の開始時点で払込普通株式資本がRM250万以下であること、事業総所得がRM5,000万以下であること、払込資本RM250万を超える会社を支配していない/支配されていないことです。

外資100%のSdn Bhdは、この階段を使えない前提で見積もっておく

日本企業にとっていちばん実害が大きい論点がここです。所得税法1967の別表1 第I部 第2B項(d)は、基準期間の開始時点で払込普通株式資本の20%を超える部分を、マレーシア国外で設立された外国法人または非マレーシア国民の個人が直接・間接に保有している会社には、軽減税率を定めた第2A項を適用しないと定めています。この規定はFinance Act 2023(Act 845)で追加され、賦課年度2024(YA2024)から適用されています。

LHDNの解説にあたるPublic Ruling 8/2025「Tax Treatment for Micro, Small and Medium Companies」(2025年12月22日発行)も、5.3.3および6.2.1で同じ内容を確認しています。賦課年度2023までは内資か外資かの制限がなかったことも同通達に明記されており、以前の情報のまま検討していると前提がずれます。

この規定にもとづくと、日本の親会社が100%出資したSdn Bhdは、規模が小さくても最初の1リンギットから24%で計算される扱いになります。日本語の解説の多くが「中小企業なら17%」とだけ書いているため、想定していた手取りと合わなくなるケースが起きます。

※持分をどう設計するかで結論が変わる部分です。実際の適用可否は、現地の会計事務所と日本の税理士の両方にご確認ください。なおLHDN公式サイトのSME解説ページには、この外資20%の条件は記載されていません(2026年9月時点)。条文・通達とサイトの記載が揃っていない状態なので、判断は条文本文と専門家の確認に置いてください。

支店と駐在員事務所の扱い

支店は日本本社と同一の法人なので、経営と支配が日本にあれば非居住法人としてマレーシアの恒久的施設(PE)に帰属する所得に課税されるのが基本の考え方です。非居住法人は中小企業向けの軽減税率の対象外にあたるため、標準税率での計算を前提に、余裕をみて見積もっておくのが安全です

※所得税法1967の別表1 第I部 第2項は、賦課年度2016以降の法人の税率を24%と定めており、居住法人と非居住法人を区別していません。軽減税率を定めた第2A項のほうが「マレーシアの居住法人かつマレーシアで設立された会社」に限定されている構造です。一方でLHDN公式サイトの非居住法人向けページの表には、賦課年度2015までの旧税率である25%の表記が残っています(2026年9月時点)。同じ機関の公表内容で数字が揃っていないため、支店の税負担を見積もる際はLHDNまたは現地の会計事務所に直接ご確認ください。

駐在員事務所については、「商業活動が禁じられているのだから課税されない」と読むのは危険です。日本語の解説ではそう書かれがちですが、LHDNの公表内容はむしろ逆方向を示しています。

LHDNが2020年5月に公表した「事業を行う場所(place of business)」の判定ガイドラインには、次のような設例があります。ある非居住法人がマレーシアに販売の駐在員事務所を置き、その活動は新規・既存顧客へのマーケティングに限られ、契約を結ぶ権限もない。それでもLHDNは、同社がマレーシアで行っている倉庫業務や製造活動とあわせて一体の事業活動を構成するとして、マレーシアに事業を行う場所があると判断しています。判定は事務所単体ではなく、その企業のマレーシアでの活動全体で行われるということです。

もう一点。LHDNの電子インボイス・ガイドライン(バージョン4.6・2025年12月7日発行)は、遵守義務を負う主体の一覧に「representative office and regional office」を明記しています。駐在員事務所は、税務の枠の外にある存在ではありません。

確実なのは、従業員のSOCSO・EPFへの登録と拠出(ガイドライン5.11)、そして駐在員個人の所得税です。一方で法人税の申告書(Form C)の提出義務や、雇用主としてのForm Eの区分について、駐在員事務所を名指しした記載はMIDA・LHDNいずれの公式文書にも確認できませんでした。ここは推測で進めず、開設前にLHDNへ照会するか、現地の会計事務所にご確認ください。

SST(売上・サービス税)は業種と閾値で決まる

SSTは形態では変わらず、何を売るかで決まります。サービス税の標準税率は8%で、政令の別表に挙げられた区分だけが6%です。6%になるのは飲食の提供、電気通信、駐車場、物流、ヘルスケア、建設工事、教育などです。一般の登録閾値は12か月でRM500,000。売上税の登録義務は製造業者に限られるため、サービス業や商社は売上税の登録対象になりません。

注意していただきたいのは、2025年7月1日にサービス税の課税範囲が拡大されて以降も改定が続いていることです。直前の2025年6月28日には財務省が内容を改訂し、賃貸リースと金融サービスの登録閾値がRM500,000からRM1,000,000へ引き上げられました。賃貸・リースはさらに、2026年1月1日から税率が8%から6%へ引き下げられています(官報 P.U.(A) 125/2026)。オフィスを借りる側にも効いてくる部分です。

この分野は公表資料のあいだで記載が揃わない状態が続いています。関税局(MySST)の英語版ガイドには改定前の内容が残っており、現行の数字はマレー語版や官報にしかない、ということが起きています。ご自身の業種が対象かどうかは、官報と財務省・関税局の最新の公表で確認してください。英語のガイドだけを根拠にすると、古い税率で見積もることになります。

就労ビザから逆算すると、選択肢はかなり絞れる

実務でいちばん多い分かれ道がここです。「会社を作れること」と「駐在員を送れること」は、まったく別の条件で決まります。会社法には最低払込資本の定めがない一方、就労ビザ(Employment Pass)を出す会社としては別の基準が設定されています。

Sdn BhdでEPを取る場合は、移民局の駐在員サービス部門(ESD)に会社を登録します。ESDが公表している払込資本の基準は次のとおりです。

出資の構成求められる払込資本円換算の目安
100%マレーシア資本RM250,000約970万円
合弁(外資30%以上)RM350,000約1,350万円
100%外資RM500,000約1,940万円
外資でWRT(卸・小売・貿易)ライセンス保有RM1,000,000約3,870万円

※移民局ESDの会社登録FAQにもとづく区分です。為替はRM1≒38.7円で換算した目安。外資系がWRTに該当する業種を行う場合、国内取引省(KPDN)のWRTライセンス取得が前提になります。

一方で駐在員事務所のEPはMIDA経由です。法人ではないため、この払込資本の要件はかかりません。代わりに、年RM300,000の運営支出、月RM5,000以上の基本給、MIDAの承認、駐在員2名に対しマレーシア人1名という構成が求められます。

つまり「駐在員を1〜2名だけ送りたい」という目的なら、どちらが軽いかは一概に言えません。Sdn BhdはRM500,000を払い込む代わりに事業を行えて期限もありませんし、駐在員事務所は払込資本が要らない代わりに売上を立てられず年数にも上限が見えています。金額の大小ではなく、何をしたいかで決める場面です。

ご家族を帯同するなら、見るのは形態ではなく「給与の額」

ここは形態選びと同じくらい効いてくるのに、比較記事でほとんど触れられていない部分です。配偶者やお子さんを帯同するDependent Pass(DP)は、会社の形態ではなくEP保持者ご本人の給与とEPの区分で決まります。移民局ESDの案内では、DPと長期社会訪問パス(LT-SVP)はいずれも月給RM5,000超のEP保持者のみ申請できるとされています。

対象になるご家族の範囲も決まっています。DPは法的な配偶者と18歳未満のお子さん(実子・継子・法的養子。障害のあるお子さんは年齢を問わない)。18歳から25歳の未婚のお子さんはLT-SVPという別のパスになります。ESDのガイドブックはLT-SVPについて「就学は認められず、Student Passへの切り替えが必要」と記載しています。お子さんがインター校の最終学年で18歳を迎える場合、この線をまたぐことになります。学校がStudent Passのスポンサーになるのか、切り替えが必要なのかは学校と移民局の運用で分かれ得るため、進学の前に学校と移民局の両方にご確認ください。

18歳未満のお子さんが学校に通う場合は、DPにPermission to Study(就学許可)という手続きを付けます。ESDの書類一覧に「Permission to Study - Dependant Pass」として専用のフォームが用意されています。

ただしこれは移民局側の制度の話で、学校側の受け入れ条件は別です。学校によっては、DPと就学許可ではなく学生パス(Student Pass)の取得を求めることがあります。その場合、保護者がDP、お子さんが学生パスという形になり、更新の手間も費用も分かれます。入学の可否とパスの扱いは、出願前に学校へ直接ご確認ください。私たちがご相談を受けるときも、ここは学校ごとに個別に確認しています。

※★ここに1つ、2026年9月時点で公式に決着していない論点があります。EPの給与区分は2026年6月1日に改定され、カテゴリーIIIが月RM5,000〜9,999に引き上げられました(改定前はRM3,000〜4,999)。一方、改定前のESDガイドブック(2025年4月版)ではカテゴリーIIIは家族の帯同不可とされており、この記載が改定後に更新されていません。「RM5,000超なら申請可」という原則と正面から食い違う状態です。駐在員事務所のTerm Postの最低給与RM5,000は、ちょうどこの帯に入ります。ご家族の帯同を前提に赴任を組む場合は、給与をカテゴリーIIの水準(月RM10,000以上)に置くか、MYXpatsのヘルプデスクに直接ご確認ください。

なお駐在員事務所(RE/RO)の駐在員でも、DPの申請経路そのものは用意されています。MIDAの就労ビザガイドライン(2026年6月1日版)はRE/ROを対象セクターに明記しており、MIDAのFAQでもEPと同じシステムでDPを申請できるとされています。

現地からのリアル

ご家族を帯同される場合、ここにお子さんの学校という別の時間軸が加わります。インターナショナルスクールの多くは学年の途中でも受け入れていますが、出願から入学までに数か月かかることは珍しくありません。駐在員のEPが下りてから学校を探し始めると、渡航してからしばらくご家族だけ日本に残る、という形になりがちです。

私たちがご相談を受けるときは、会社の形態を決める段階で「学校の出願をいつ始めるか」も同じ表に並べるようにしています。形態によって滞在の年数の見込みが変わり、年数が変わると選ぶべき学校のカリキュラムも変わるからです。2年で戻る前提と、5年以上いる前提では、勧める学校が変わります。

撤退と切り替えにかかるもの

入口の費用は比較されるのに、出口の話はほとんど書かれていません。ですが、形態の選択でいちばん効いてくるのは実はここです。

駐在員事務所は法人ではないため、閉じる手続きはMIDAへの届出が中心で、3つのなかでは軽く済みます。支店は、マレーシアでの事業や営業所を停止する際の手続きが会社法2016の第578条に定められています。Sdn Bhdは法人の清算になるため、会社法にもとづく清算手続きが必要で、3つのなかでいちばん重く、時間もかかります

※清算にかかる実費と期間は、負債の有無・従業員の人数・税務調査の要否で大きく変わり、公的に定まった金額はありません。撤退の可能性を織り込む場合は、設立を依頼する会計事務所に「閉じるときにいくらかかるか」も同時に見積もってもらってください。

もうひとつ、駐在員事務所から現地法人へ切り替えるときに引き継げないものがあります。駐在員事務所は契約の当事者になれないため、そもそも引き継ぐべき事業契約が存在しません。従業員は新しい法人での再雇用になり、駐在員のEPも取り直しになります。「積み上げてから移行する」という発想が効きにくい形態だということです。ここも、最初から法人化の時期を決めておくべき理由になります。

選び方(5ステップ)

順番を間違えると、決めたあとにやり直しになります。制約の強いものから順に潰していく形が確実です。

  1. 業種の外資規制を確認する

    外資100%が認められない業種なら、そもそも選択肢が絞られます。流通・小売・国家権益に関わる分野は最初に確認してください。

  2. マレーシアで売上を立てるかを決める

    立てるなら支店かSdn Bhd。立てないなら駐在員事務所が候補に入ります。ここで三択が二択になります。

  3. 誰を何年送るかを決める

    Sdn BhdのEPはESD経由で払込資本の基準があり、駐在員事務所のEPはMIDA経由で運営支出と最低給与の基準があります。人数と年数で必要額が変わります。

  4. 税務の前提を先に固める

    意思決定を誰がどこで行うかで居住性が変わります。持分構成によって中小企業向けの軽減税率が使えるかも変わるため、設立前に会計事務所へ当ててください。

  5. 撤退と、ご家族の予定を同じ表に並べる

    清算コストと、帯同されるお子さんの学校の出願時期を並べます。滞在年数の見込みが変わると、選ぶ学校も変わります。

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よくある質問

駐在員事務所と支店とSdn Bhdは、何がいちばん違いますか?

マレーシアで売上を立てられるかどうかです。駐在員事務所はMIDAのガイドラインで、貿易・事業・あらゆる形態の商業活動が禁じられており、有償でサービスを提供することも認められていません。市場調査や本社との調整のための拠点です。支店とSdn Bhdは事業を行えますが、支店は日本の本社と同一の法人であるのに対し、Sdn Bhdはマレーシアで設立された別法人という違いがあります。

駐在員事務所はいちばん費用が安いのでしょうか?

登記にかかる費用は不要ですが、維持の条件があります。MIDAのRE/ROガイドライン(2023年3月24日時点版)は、外国企業の駐在員事務所に年間の運営支出として最低RM300,000を求めており、1回目の延長時にはRM600,000へ引き上げられます。コングロマリット以外は、その先の延長が「該当なし」とされています。設立の手続きは軽くても、長く置き続ける器としては設計されていない点に注意してください。

駐在員事務所でも駐在員を送れますか?

MIDAのRE/ROガイドラインでは、管理職・技術職に限り駐在員を置くことができ、最低基本給は月RM5,000(または申請時の提案額のうち高い方)とされています。Employment Passは1年有効で毎年の更新が必要です。MIDAの就労ビザガイドライン(2026年6月1日版)でも、RE/ROは対象セクターに明記されています。従業員構成は駐在員2名に対しマレーシア人1名が理想とされています。

支店とSdn Bhdでは、どちらが登録費用は安いですか?

登録費用だけを比べるとSdn Bhdのほうが安く済みます。SSMの手数料表では、株式有限責任会社の設立登記はRM1,000です。一方で外国会社(支店)の登録手数料は本国の資本金をリンギット換算した金額で決まり、RM100万以下でRM5,000、RM1億超ではRM70,000、資本の定めがない場合は一律RM70,000とされています。日本の親会社の資本金が大きいほど、支店のほうが高くなる構造です。

日本人が100%出資したSdn Bhdは、中小企業向けの軽減税率を使えますか?

使えないという前提で試算してください。マレーシアの居住法人には課税所得の最初のRM150,000を15%、RM150,001〜600,000を17%とする階段がありますが、所得税法1967の別表1 第I部 第2B項(d)(Finance Act 2023で追加)により、賦課年度2024から、払込普通株式資本の20%を超える部分を外国法人または非マレーシア国民が直接・間接に保有している会社はこの軽減税率の対象外とされています。内国歳入庁(LHDN)のPublic Ruling 8/2025も同じ内容を確認しています。適用の可否は持分の設計で変わるため、現地の会計事務所にご確認ください。

会社を作らなくてもマレーシアでできることはありますか?

会社法2016の第561条(2)と第13附則は、これだけを行っている場合は「マレーシアで事業を行っている」とみなさない行為を列挙しています。銀行口座の維持、独立契約者を通じた販売、マレーシア国外で承諾されてはじめて拘束力を持つ注文の勧誘や取得、31日以内に完了する反復的でない単発の取引などが含まれます。ご自身の取引がこの範囲に収まるかは条文の当てはめになるため、弁護士や会社秘書役事務所にご確認ください。

家族を帯同できるかどうかは、進出の形態によって変わりますか?

形態ではなく、EPを取得するご本人の給与とEPの区分で決まります。移民局ESDの案内では、Dependent Passと長期社会訪問パスはいずれも月給RM5,000超のEP保持者のみ申請できるとされています。対象は法的な配偶者と18歳未満のお子さんで、18歳から25歳の未婚のお子さんは長期社会訪問パスという別の区分になります。なおEPの給与区分は2026年6月1日に改定された一方、改定前のガイドブックにある「カテゴリーIIIは帯同不可」という記載が更新されていません。ご家族の帯同を前提に赴任を組む場合は、移民局へ直接ご確認ください。

本記事に記載した費用・制度・学校情報は、2026年8月時点に公開されている情報にもとづく目安です。為替はRM1≒38.7円で換算しています。制度や料金は改定されることがあるため、お申し込みの前に各公式サイト、または当社までご確認ください。