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マレーシア会社設立|Sdn Bhdの流れ・費用・ビザの実際【2026年】

「マレーシアに住みたいから、現地で会社を作る」。ご相談でよく出てくる選択肢ですが、ここには落とし穴があります。会社を登記する制度と、滞在・就労を許可する制度は、まったく別に動いているからです。クアラルンプールの現地スタッフが、公式情報にあたって整理しました。

結論から言うと、マレーシアで会社(Sdn Bhd)を作ること自体は登記料RM1,000(約3.9万円)から始められる軽い手続きです。払込資本についても、法律上の下限額は定められていません。重いのはその手前と、その後です。手前には「マレーシアに居所を持つ取締役1名」と「マレーシア市民または永住者の会社秘書役」という壁があり、後ろには「会社があっても就労ビザは自動では出ない」「日本人が100%出資すると中小企業向けの優遇税率が使えない」という2つの現実があります。この記事では、設立の流れと実費、設立後にかかり続けるお金、税金、そしてビザとの関係を、公式情報の出どころつきで順に整理します。

結論:「作れる」「住める」「税金が安い」は全部別の話

マレーシアの会社設立を調べていて混乱しやすいのは、3つの別々の制度を1つの話だと思ってしまうことにあります。会社の登記を扱うのは企業委員会(SSM)、滞在と就労の許可を出すのは内務省・移民局、税金を決めるのは内国歳入庁(LHDN)です。この3つは互いに連動していません。

だから「登記はできたが働けない」「働けるが優遇税率は使えない」という組み合わせが普通に起こります。まずこの前提を押さえるだけで、判断の順番が変わります。次の比較図が、この記事でいちばん持ち帰っていただきたい内容です。

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比べる項目Sdn Bhdを
設立するだけ
Sdn Bhd
+就労ビザ(EP)
DE Rantau
(ノマドパス)
マレーシアで働けるか× 働けない◎ 記載の会社でのみ可○ 国外の仕事を続ける形
長期の滞在資格が付くか× 付かない◎ 最長60か月○ 最長24か月
家族の帯同× 対象外◎ 可○ 可(配偶者は就労不可)
会社側に必要な払込資本◎ 法定額なし△ 外資100%でRM500,000◎ 会社設立自体が不要
本人側の主な条件◎ 特になし○ 学歴・職歴+基本給の下限○ 年収(テック職USD24,000〜)
向いている人取引の器だけ必要な人腰を据えて事業をする人国外の収入で暮らす人
◎ ハードルが低い・条件を満たせる○ 条件つき△ × ハードルが高い・できない
会社の登記(SSM)と滞在・就労の許可(移民局)は別制度です。「会社を作る」だけでは滞在資格は一切付きません。2026年8月時点の公表内容にもとづく整理です。
現地からのリアル

ご相談を受けていて感じるのは、「起業して住む」を最初の選択肢に置くと、たいてい遠回りになるということです。会社を作ってから住み方を考えると、就労ビザの資本要件に届かないことが後から分かり、作った会社をどうするかで悩むことになります。

順番としては、まず日本の仕事を続けたまま暮らしてみて、お子さんの学校とご家族の生活が落ち着いてから事業の形を考えるほうが、判断材料が揃います。移住と起業を同時に立ち上げると、どちらの問題で苦しいのかが切り分けられなくなるからです。

Sdn Bhdとは何か(会社法が求める5つの条件)

Sdn Bhd(Sendirian Berhad)は、日本の株式会社に近い非公開の有限責任会社です。マレー語で「Sendirian=非公開の」「Berhad=有限責任の」を意味し、外国人が現地で事業を持つときの標準的な形になります。

ちなみに日本でいう個人事業(Enterprise/Sole Proprietorship)は、外国人には選べません。マレーシア政府の事業登録ポータルは、事業登録法1956にもとづき「所有者はマレーシア国民または永住者でなければならない」と明記しています。つまり外国人にとっては、Sdn Bhdが実質的な出発点です。

会社法2016(Companies Act 2016)が求める主な条件は、次の5つです。

条件会社法2016が求める内容
株主1名から(法人株主も可)。非公開会社の株主は50名まで(第42条(1))。株主に居住要件はなく、外国人が単独株主になることも認められています
取締役1名から。18歳以上の自然人(第196条(1)(2))。ただし次の居住要件がかかります
取締役の居住最低員数にあたる取締役は「マレーシアに主たる居所を持ち、通常マレーシアに居住している」ことが必要(第196条(4))。代理・補欠の取締役はこの人数に数えられません
会社秘書役マレーシア市民または永住者で、マレーシアに常居所があり、法定団体の会員またはSSMのライセンス保持者であること(第235条)。設立後30日以内に選任(第236条(2))
登記住所・払込資本登記住所はマレーシア国内で、通常の営業時間に一般が到達できる状態であること(第46条)。一方で払込資本については、会社法に法定の下限額が定められていません

※出典=会社法2016本文、SSM公式FAQ(Companies Act 2016)、SSM「Guidelines For Incorporation Of A Local Company」。2026年8月時点。

「マレーシアに常居住」の定義は、SSM自身が示していない

ここが実務でいちばん揺れる部分です。SSMの公式FAQは「外国人は単独の株主になれる。ただし単独の取締役にもなりたいのであれば、第196条(4)を満たす必要がある」と述べていますが、「ordinarily reside(通常居住する)」が具体的にどの状態を指すのか、会社法もSSMのガイドラインも定義していません。就労ビザや永住権が必要なのかにも触れていません。

そのため、この条件を誰でどう満たすかは、会社秘書役事務所によって扱いが変わります。「日本人だけで作れます」「いや、現地の取締役が必要です」と説明が食い違うのは、多くの場合この定義の空白が原因です。相談する際は、その事務所が第196条(4)をどう解釈しているかを最初に確認してください。

なお、居住要件を満たす取締役が1名いれば、それ以外の取締役は非居住者でも就任できます(SSM公式FAQ)。日本にいるご本人が取締役に入りつつ、居住要件は別の1名で満たす、という構成自体は制度上あり得ます。

設立の流れと実費(6ステップ)

設立自体の実費は社名予約RM50と登記料RM1,000が中心で、これにご自身で選んだ会社秘書役の報酬が乗ります。SSMの手数料表にもとづく金額は次のとおりです。

  1. 社名の検索・予約(30日ごとにRM50/約1,900円)

    使いたい社名が登録できるかを確認して予約します。SSMの手数料表は「30日ごと、またはその一部につきRM50、最長180日まで」と定めています。つまりRM50は一回払いではなく30日単位の単価です。長く押さえるほど費用が積み上がるので、社名を決めてから予約するほうが無駄がありません。

  2. 設立登記の申請(RM1,000/約3.9万円)

    SSMのオンライン窓口MyCoIDから申請します。ここでよくある間違いですが、ezBizは個人事業やパートナーシップ(ROB)用の窓口で、Sdn Bhdの設立には使いません。提出する情報は、社名・非公開か公開かの区分・事業の性質・登記住所・事業所住所・取締役と発起人の詳細に加えて、破産免責を受けていない旨と有罪判決を受けていない旨の宣誓、そしてコンプライアンス宣誓書です。

  3. 登記完了の通知を受け取る

    承認されると登録の通知が発行されます。ここで見落としやすいのが、Certificate of Incorporation(設立証明書)は自動では発行されず、請求して手数料を払ったときだけ交付されるという点です。銀行や取引先に提出を求められることがあるので、必要なら早めに請求してください。

  4. 30日以内に会社秘書役を選任する

    会社法上の義務です(第236条(2))。マレーシア市民または永住者で、SSMに登録され有効な実務証明書を持つ人でなければ務まりません。実務上は、この会社秘書役事務所が登記住所の提供や年次届出も一括して担うのが一般的です。

  5. 法人銀行口座を開設する

    ここは公的な一次情報が存在しない領域です。必要書類・所要期間・断られる理由は各銀行の裁量で決まり、当局が基準を公表しているわけではありません。日本語の記事でよく見る「2〜4週間」という目安も公的な裏付けはないため、期日から逆算した計画は立てにくいと考えてください。

  6. 税務・雇用・ライセンスの登録

    MyCoID経由で設立した新設会社は、LHDNの法人納税者番号(TIN)が自動で登録されます(別途の申請は不要)。予定納税の申告書e-CP204は事業開始から3か月以内。従業員を雇うなら、SOCSO(PERKESO)は雇用から30日以内に登録が必要です。EPF(従業員積立基金)については非マレーシア国民の従業員も強制加入となり、拠出率は労使それぞれ2%と法律の別表に定められています(EPFの発表では2025年10月からの適用とされていますが、実務の運用は更新されるため、雇用の直前に最新の発表をご確認ください)。事業所ライセンスや看板ライセンスは地方自治体(クアラルンプールならDBKL)の管轄です。

所要期間について、公的に定められた日数はありません。社名審査の結果や書類の揃い方で変わるため、渡航日や学校の入学時期が決まっている場合は、余裕を持った逆算をおすすめします。

ご家族の場合、どの順番で進めるのが現実的か整理します

「会社を作る」「住む」「お子さんを学校に入れる」は、それぞれ別の手続きです。
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設立後にかかり続けるお金と義務

設立費用より判断に効くのは、「毎年いくら・何を出し続けるのか」です。ここを合算して見せている日本語の記事はほとんどありません。法定の金額が決まっているものと、事務所によって変わるものを分けて整理します。

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項目頻度金額・義務の内容
Annual Return(年次報告)毎年提出料RM150(非公開会社)。設立記念日から30日以内。設立した年は不要(第68条)
財務諸表の作成・提出毎年最初の財務諸表は設立から18か月以内、以後は決算日から6か月以内。株主への回付から30日以内にSSMへ提出(第248条・第259条)
会計監査毎年免除基準(下記)を満たさなければ必要。免除されても、未監査の財務諸表と取締役の証明書はSSMへ提出します
会社秘書役の報酬・登記住所継続法定額はなく、事務所ごとに設定されています。設立の見積もりを取るときに必ず継続費用も併せて確認してください
実質的支配者(BO)の届出随時2024年4月1日施行。登録簿に記載してから14日以内にSSMへ届け出ます
SST(売上・サービス税)の申告2か月ごと登録した場合、対象期間の翌月末日まで。納税額がゼロでも提出義務があります
電子インボイス(e-Invoice)継続年商RM500万以下の事業者は2026年1月1日から義務化。ただし年商RM100万未満は免除されています

※為替はRM1≒38.7円(2026年8月時点)で換算しています。会社秘書役・会計事務所の報酬は法定額がないため、金額を書かず項目のみ挙げています。

監査免除は2025年から段階的に広がっている

小さな会社にとって効くのがここです。SSMの実務指令PD 10/2024により、2025年1月1日以降に開始する会計期間から、次の3基準のうち2つ以上を満たす非公開会社は監査が免除されます(当期と直前2期のすべてで基準以下であることが条件)。

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基準2025年開始期2026年開始期2027年開始期
売上RM100万以下RM200万以下RM300万以下
総資産RM100万以下RM200万以下RM300万以下
従業員数10人以下20人以下30人以下
SSM実務指令 PD 10/2024にもとづく段階導入。休眠会社は引き続き免除されます。ただし公開会社・その子会社・外国会社の支店は対象外で、5%以上の株主やSSMから書面で請求があれば監査が必要になります。

税金の本当の話(外資100%だと24%)

「マレーシアは税金が安い」という前提で検討される方が多いのですが、日本人が100%出資した会社には、その優遇はそのまま当てはまりません。ここは日本語の記事でほとんど触れられていない論点なので、根拠を示して説明します。

中小企業向けの階段と、その適用条件

マレーシアの居住法人には、中小企業(MSMC)向けの税率の階段があります。課税所得の最初のRM150,000が15%、RM150,001〜600,000が17%、それを超える部分が24%です。条文の建て方としては原則24%で、要件を満たした会社だけが軽減税率を使えるという順序なので、MSMCに当たらない会社は原則24%で計算します(要件を満たしても軽減税率の対象外とされる事業体もあります)。

MSMCの要件は、基準期間の開始時点で払込普通株式資本がRM250万以下であること、事業総所得がRM5,000万以下であること、そして払込資本RM250万を超える関連会社との資本関係がないことです。

賦課年度2024から加わった「外資20%」の条件

ここが本題です。LHDNのPublic Ruling 8/2025は、賦課年度2024(YA2024)から、払込普通株式資本の20%を超える部分を、マレーシア国外で設立された外国法人または非マレーシア国民の個人が直接・間接に保有している会社は、MSMCに該当しないと定めています。

つまりこの通達にもとづくと、日本人が100%出資したSdn Bhdは、原則として最初の1リンギットから標準税率の24%で計算される扱いになります。同じ通達の設例では、外国法人の保有がちょうど20%ならMSMCに該当し、100%保有なら該当しないことが示されています。持分をどう設計するかで結論が変わる部分なので、実際の適用可否は現地の会計事務所に確認してください。

さらにこの20%の条件は、税率だけでなく予定納税の申告(CP204)の提出免除にも波及します。新設会社の提出免除が使えないため、1年目から予定納税の申告義務が発生すると読める内容です。

なお、新設会社向けの税額控除(所得税法第6D条)は、2020年7月1日以降かつ2022年12月31日までに操業を開始した会社を対象としたもので、この期間はすでに終了しています。これから設立する会社は対象になりません(対象期間内であっても、関連会社の資本要件など別途の条件が付いていました)。「新設なら控除がある」と書いている記事を見かけたら、期限切れの情報だと考えてください。

その会社は「マレーシアの居住法人」なのか

見落とされやすい前提として、上記の税率はいずれも「居住法人」を対象にしたものです。マレーシアの法人の居住判定は登記地ではなく、管理支配(management and control)がマレーシアで行われているかで決まるとされています(LHDN Public Ruling 5/2011)。取締役会が実質的に日本で開かれ続ける会社は、この前提が崩れる可能性があります。

役員報酬・配当・SSTの押さえどころ

会社から自分にお金を移す段階でも注意点があります。

SSTは2025年7月1日に課税範囲が拡大されましたが、その直前の2025年6月28日に財務省が内容を改訂しており、賃貸リースと金融サービスの登録閾値がRM500,000からRM1,000,000へ引き上げられ、美容サービスは対象から除外されました。ここで注意していただきたいのは、関税局のMySSTのFAQページに改訂前の内容が残っており、財務省の発表と食い違っている状態があることです。ご自身の業種が対象かどうかは、必ず最新の公式発表で確認してください。

現地からのリアル

税金について私たちがお伝えしているのは、「マレーシア側で安くなる分と、日本側で発生する分を、同じ表の上に並べてから判断してください」ということです。マレーシア側だけを見て決めたあとに日本側の扱いが分かって、想定と違ったというケースがあります。

日本側では外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)の考え方が関わり、租税負担割合が一定の水準を下回る外国関係会社の所得は、日本側で合算される場合があります。日マレーシア租税協定も、1999年発効の本体に2010年の改正議定書、2021年6月発効の多国間協定(MLI)が重なった状態です。ここはご家庭ごとに結論が変わる領域なので、必ず日本の税理士にご相談ください。私たちが判断できる範囲ではありません。

会社を作れば住めるのか(就労ビザとの関係)

結論から言うと、会社を設立しても就労ビザは自動的には出ません。移民局の駐在員サービス部門(ESD)は、「駐在員は自分自身の移民パスを申請することはできない。申請は、その駐在員を雇用しようとする会社が行わなければならない」と明記しています。

創業者ご本人が自社の就労ビザ(Employment Pass、以下EP)を取る場合、ESDのガイドブックでは株主側の条件として「株式を30%以上保有していること」かつ「SSMに登録された取締役であること、または会社の重要職にあること」が示されています。加えて実務上の落とし穴として、雇用契約に本人が雇用主と従業員の両方として署名することは認められていません(オーナーや取締役であっても)。別の権限者の署名が必要になります。

会社側に求められる払込資本

EPを出す会社としての基準は、設立時の「最低資本金なし」とはまったく別に設定されています。

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出資の構成求められる払込資本円換算の目安
100%マレーシア資本RM250,000約970万円
合弁(外資30%以上)RM350,000約1,350万円
100%外資RM500,000約1,940万円
外資51%以上で卸・小売・貿易(WRT)等RM1,000,000約3,870万円

※移民局ESDのガイドブック・FAQ、およびMIDAの就労ビザガイドライン(2026年6月1日版)で共通して示されている区分です。為替はRM1≒38.7円で換算した目安。公開有限会社・保証有限会社などは対象外とされています。

つまり「RM1でも設立できる会社」と「就労ビザを出せる会社」は、まったく別のものです。ここを取り違えたまま設立してしまうと、あとから増資が必要になります。

なお外資の参入が制限されている業種では、そもそも3か月を超える長期パスの申請自体が認められていません。MIDAのガイドラインは、売場3,000平方メートル未満のスーパーやミニマーケット、雑貨店、24時間営業のコンビニ、給油所、常設市場の店舗、常設路面店などを具体的に挙げています。飲食業や小売業を考えている場合は、業種そのものが対象外でないかを最初に確認してください。

2026年6月1日から、EPの給与条件が大きく変わった

ここは日本語の情報がほぼ追いついていないところです。内閣が2025年10月に承認し2026年1月15日に公表された新しい駐在員給与方針が、2026年6月1日から施行されています

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区分旧基準(〜2026年5月31日)新基準(2026年6月1日〜)EPの期間
カテゴリーI月額RM10,000以上月額RM20,000以上最長10年
カテゴリーII月額RM5,000〜9,999月額RM10,000〜19,999最長10年
カテゴリーIII月額RM3,000〜4,999月額RM5,000〜9,999
(製造業・関連サービスはRM7,000〜9,999)
最長5年
移民局ESDの公表資料にもとづく。2026年6月1日以降に受理されたすべての新規・更新申請に適用され、既存の保持者も更新のタイミングが6月1日以降であれば新基準で判断されます。カテゴリーII・IIIには2027年1月1日から現地人材への承継計画が必要になります。

この表で最も大事なのは、給与の判定が「基本給のみ」で行われることです。ESDの資料は、手当・インセンティブ・賞与は含めない、そしてマレーシア国外で支払われる給与も含めないと明記しています。日本から報酬を受け取りながらマレーシアの会社の基本給を低く設定する形では、この基準を満たせません。

これは資金計画にそのまま跳ね返ります。就労ビザを取るために設定した基本給は、会社が毎月払い続ける固定費になるということです。売上が立つ前から人件費が確定し、そこにEPFやSOCSOの拠出も乗ります。「ビザを通すための給与額」と「会社が実際に払える額」を別々に考えず、同じ資金計画の上に並べて確かめてください。

ご本人側の要件としては、学位以上なら関連分野で3年以上、ディプロマなら5年以上、技術認定またはそれと同等なら7年以上の実務経験が示されています。費用はESDの申請料がEPでRM2,000(サービス税8%込でRM2,160)、これに移民局の年間費用RM200と申請ごとの処理料RM125が加わります。EPはパスに記載された会社でのみ就労できるもので、有効なのは半島マレーシアに限られます

もうひとつ、外国人を雇う会社側の義務として押さえておきたいのが労働局(JTKSM)の事前承認です。2023年1月1日施行の雇用法改正により、外国人労働者(駐在員も含む)を雇う前に承認を得る必要があり、違反すると罰金RM10万以下または5年以下の拘禁が科されるとされています。求人をMYFutureJobsに掲載する手続きとあわせて、EP申請の前段に組み込まれています。

※就労ビザの分野は、2026年6月の改定のように短い間隔で運用が変わります。製造業・関連サービスの業種別の下限や、既存パス保持者の移行の細部については公表が続いている段階です。申請を具体的に検討する時点で、必ず移民局の最新の公表と現地の専門家に確認してください。

DE Rantau(ノマドパス)を「自社から雇われる形」には使えない

会社設立と混同されやすいのがDE Rantauです。これはデジタル経済開発公社(MDEC)が窓口となるパスで、実体は専門訪問パス(Professional Visit Pass)の一種です。3〜12か月で発給され、12か月の更新を含めて最長24か月。年収要件はテック職でUSD24,000、非テック職でUSD60,000とされています。

ここで重要なのは2点です。フルタイムの被雇用者として申請する枠では、雇用主がマレーシアに登記されていないことが要件とされているため、自分で設立したSdn Bhdから雇われる形には使えません。一方でフリーランス・独立契約者の枠については、公式FAQが「国外またはマレーシアのクライアント」との契約書を必要書類として挙げており、マレーシア国内の顧客を持つことは想定されています。「DE Rantauではマレーシアの顧客を取れない」と書いている情報を見かけますが、少なくともフリーランス枠については公式FAQと食い違います。

※DE Rantauは対象職種の区分や年収の基準がFAQの改訂で更新されており、外貨建ての要件でもあります。申請を検討する時点の条件を、必ずMDECの公式FAQでご確認ください。

働き方ごとのルートの違いは、マレーシア移住で親の仕事はどうするかマレーシア移住のビザの種類で整理しています。

保護者パスや学生パスで会社を作れるのか

お子さんの留学に付き添いながら事業をしたい、というご相談は実際にあります。ここは「働くこと」と「会社を持つこと」で情報の確かさが違うので、分けてお伝えします。

働くことについては制限が明確です。移民局とEducation Malaysia(高等教育省の窓口)の案内によると、学生パスでのアルバイトは休暇中に限って週20時間まで、勤務先はレストラン・ガソリンスタンド・ミニマーケット・ホテルなどに限定され、レジ係は認められません。さらに事前に移民局の許可が必要で、申請は在籍校を通して行います。語学センターや技能訓練センターの学生パスは、この仕組みの対象外とされています。

一方、会社の設立そのものについては、公式に書かれていません。移民局の学生パスの案内で「事業を行ってはならない」と明記されているのは扶養家族と保護者で、学生本人についての記載は見当たりませんでした。会社法の側にも、取締役の欠格事由にビザの種別を挙げた条文はありません。つまり禁止とも許可とも公式には読み取れない状態です。ここで大事なのは、「記載がない」ことは「認められている」という意味ではないという点です。「学生パスでは起業できません」と断言している情報も条文の引用が伴っていないことが多いのですが、だからといって「では作れる」とも読めません。実際に検討される場合は、移民局と会社秘書役の両方に個別に確認してください。お子さんの在学に影響しうる判断なので、ここは推測で進めないほうがいい部分です。

そして、ここは親子留学で検討される方に必ず押さえていただきたい点です。お子さんの学生パスに付き添う保護者は、就労も事業の運営も認められていません。移民局の学生パスの案内は、保護者について「働くこと」と「事業を行うこと」の両方を明示的に認めていません。つまり会社を設立しても、保護者のパスのままで働けるようになるわけではありません

働くのであれば、会社の側から就労ビザを申請してパスを切り替えることになります。移民局は1人につき1つのパスという原則を取っており、扶養家族パスの保持者が就労する場合は、現在のパスを短縮・返上して就労ビザへ切り替える必要があるとしています。お子さんの在学とご自身の就労を同時に成立させたい場合は、この切り替えを前提に組み立ててください。付き添いのパスのまま自社で働ける、という形は制度上想定されていません。

つまずきやすい5つのポイント

ご相談のなかで、あとから分かって計画をやり直すことになりやすいのは次の5点です。

1. 会社秘書役は日本人では務まらない

会社法がマレーシア市民または永住者と定めているため、日本人だけで会社を運営し続けることはできません。設立の入口から現地の事務所と組む前提になります。だからこそ、その事務所の説明の一貫性と継続費用は、設立前に確認しておく価値があります。

2. 「常居住の取締役」を誰が担うのかを決めていない

前述のとおり定義が公式に示されていないため、事務所ごとに解釈が違います。ここを曖昧にしたまま進めると、登記の段階で止まります。「誰がこの1名になるのか」を最初に確定させてください。

3. 業種によっては、会社も就労ビザも通らない

外資の参入が制限された業種では長期パスの申請そのものが認められません。小売・卸を含む流通業(distributive trade)に外資が入る場合は、国内取引省(KPDN)の承認と、原則として1店舗あたりRM100万の資本が求められます。飲食・小売は、思っているより入口が狭い分野です。

4. 法人口座で止まる

設立の工程のなかで、唯一「公的な基準が公表されていない」のが法人口座です。事業の実体、取引の相手、代表者の滞在資格などを見て各行が判断します。ここが遅れると資本金の払込みも売上の受け取りも動かないため、口座が開くまでは支払いの約束をしないほうが安全です。

5. 税金が安くなるつもりが24%だった

繰り返しになりますが、外資が20%を超える会社は中小企業向けの15%・17%を使えません。「マレーシアは法人税が安いから」という理由だけで設立を決めると、想定していた手取りと合わなくなります。数字を置くなら、24%で計算した表から始めてください。

検討の進め方(5ステップ)

会社を作るかどうかは、「事業の話」ではなく「暮らしの設計の話」として順番を決めるほうが失敗しにくいです。私たちがご相談の場でお伝えしている順番です。

  1. 収入をどこから得るのかを先に決める

    日本の仕事を続けるのか、マレーシアで稼ぐのか。ここが決まらないと、必要なパスも会社の要否も決まりません。

  2. 会社が本当に必要かを確かめる

    マレーシアの顧客と契約する必要があるのか、器としての法人が要るのか。国外の収入で暮らすだけなら、会社を作らない選択肢のほうが軽い場合があります。

  3. 就労ビザの条件から逆算する

    外資100%ならRM500,000の払込資本、基本給は最も低いカテゴリーIIIでもサービス業で月RM5,000以上、製造業・関連サービスでは月RM7,000以上。この2つを満たせるかどうかで、設立するかどうかが決まります。

  4. 日本側の税務を専門家に確認する

    マレーシア側の税率だけで判断しないこと。日本の居住者判定と外国子会社合算税制の扱いを、設立前に日本の税理士へ確認してください。

  5. 暮らしと学校を先に固めてから設立する

    住む場所とお子さんの学校が落ち着いてから会社の形を考えるほうが、判断材料が揃います。同時に立ち上げると、どちらの問題で行き詰まっているのか切り分けられなくなります。

「会社を作るべきかどうか」から一緒に整理します

収入の出どころ・ご家族の滞在・お子さんの学校を並べて、必要な手続きの順番を洗い出します。
マレーシア移住の資料とセミナー案内も無料でお送りします。

無料で資料とセミナー案内を受け取る 入力は1分・しつこい営業は行いません

よくある質問

マレーシアで会社を設立すれば、そのまま住めるようになりますか?

いいえ。会社の登記(SSM)と滞在・就労の許可(移民局)は別の制度です。マレーシアで働くには就労ビザ(Employment Pass)などのパスが必要で、その申請は本人ではなく雇用する会社が行います。会社を設立したうえで、移民局の駐在員サービス部門(ESD)に会社を登録し、会社側の払込資本などの条件を満たしてから申請する流れになります。

日本人だけでマレーシアの会社を設立できますか?

株主については、外国人が単独で株主になることが認められています(SSMの公式FAQ)。一方で取締役は、最低員数にあたる1名がマレーシアに主たる居所を持ち、通常マレーシアに居住していることが会社法2016 第196条(4)で求められます。さらに会社秘書役はマレーシア市民または永住者でなければ務められないため、日本人だけで完結させることはできない仕組みになっています。

Sdn Bhdの最低資本金はいくら必要ですか?

会社法2016に最低払込資本の規定はありません。ただし就労ビザ(Employment Pass)を出す会社としては別の基準があり、移民局ESDの公表では100%マレーシア資本の会社でRM250,000、外資30%以上の合弁でRM350,000、100%外資でRM500,000、卸・小売・貿易(WRT)などの分野でRM1,000,000が求められています。「設立できる資本」と「就労ビザを出せる資本」は別だと考えてください。

日本人が100%出資すると法人税は何%になりますか?

標準の24%です。マレーシアには中小企業向けに課税所得の最初のRM150,000を15%、RM150,001〜600,000を17%とする階段がありますが、内国歳入庁(LHDN)のPublic Ruling 8/2025によると、賦課年度2024(YA2024)から、払込普通株式資本の20%を超える部分を外国法人または非マレーシア国民の個人が直接・間接に保有している会社はこの優遇の対象外とされています。日本人が100%出資した会社は、最初の1リンギットから24%で計算される前提になります。

設立にはどのくらいの費用と期間がかかりますか?

SSMの手数料表では、社名の予約が30日ごとにRM50(最長180日まで)、株式有限会社の設立登記がRM1,000です(2026年8月時点)。これに会社秘書役の報酬や登記住所の費用が別途かかります。所要期間については公的に定められた日数がなく、書類の揃い方や社名審査の結果で変わります。日本語の記事でよく見る「2〜4週間」という目安は公的な一次情報では確認できないため、期日が決まっている場合は余裕をもって進めてください。

留学中(学生パス)に会社を設立して働けますか?

働くことについては制限がはっきりしています。学生パスでのアルバイトは、休暇中で週20時間まで、レストラン・ガソリンスタンド・ミニマーケット・ホテルなどに限られ、レジ係は認められず、事前に移民局の許可が必要とされています。一方で会社の設立そのものについては、移民局の学生パスの案内で事業を禁じていると明記されているのは扶養家族と保護者で、学生本人についての記載は見当たりません。ただし記載がないことは認められているという意味ではありません。禁止とも許可とも公式に読み取れないため、移民局と会社秘書役の両方に必ず個別に確認してください。

本記事に記載した費用・制度・学校情報は、2026年8月時点に公開されている情報にもとづく目安です。為替はRM1≒38.7円で換算しています。制度や料金は改定されることがあるため、お申し込みの前に各公式サイト、または当社までご確認ください。